2019年に施行された働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)によって、働く人たちが各々の事情に応じた柔軟な働き方を自由に選択できるようになりました。
しかし、一般的に男女とも出産ピーク年代はキャリアアップのタイミングと重なり、仕事への責任感が大きくなっていくこともあり、なかなか育休を取りづらくなっているのが現状です。
また、いざ育休を取っても「職場復帰へのハードルが高く感じる」「ワンオペが不安で育児に専念したい」などの理由から、職場復帰できずに退職をする人も多いでしょう。
そこで、2022年より段階的に、育児休業の大きな見直しや出生時育児休業の導入が行われています。
今回は育児休業と産後パパ育休(出生時育児休業)の違いや、産後復帰社員に対して企業が取るべき適切な対応について解説します。
育児・介護休業法取得率の状況
女性の活躍機会の増加により女性の育休取得率が年々減ってきているなか、男性の取得率が上昇傾向にあることが図1を見るとわかります。
しかし、それでも女性と比べると半分以下にすぎません。
そのため、女性の家事育児の比重が大きくなり、育休に入ったあと復帰せずに退職してしまう人が増えていると考えられます。
このような状況を脱却するために、女性が仕事と育児のバランスを上手く取れる環境づくりを目的に法改正が行われました。
育児休業取得率 | |||
年度 | 2018 | 2019 | 2020 |
女性(%) | 82.2 | 83.0 | 81.6 |
男性(%) | 6.16 | 7.48 | 12.65 |
図1
産後パパ育休(出生時育児休業)とは?違いについて
育児休業とは、原則1歳未満のこどもを養育するための休業です。
そして、2022年4月より新たに創設されたのが出生時育児休業、通称「産後パパ育休」です。
この制度では、企業が労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中の就業が可能です。
しかし、育児休業と産後パパ育休が混同しやすく正しく理解していない人も多いのではないでしょうか。
育児休業制度を導入していない企業や産後パパ育休を導入検討の企業は、2つの制度の違いを理解することが重要です。
産後パパ育休は男女問わずすべての従業員が対象です。
また、育児休業と異なり、休業期間の2週間前の申請で取得でき、休業中の就業も本人の意向により可能であることから、従業員にとっては自由度が高く利用しやすい制度だと言えるでしょう。
ただし、以下のいずれかに当てはまる方は対象外になる場合があるので注意しましょう。
・入社1年未満
・申し出の日から8週間以内に雇用契約の終了が決まっている
・1週間の所定労働日数が2日以下
育児休業制度 (R4.10.1~) |
産後パパ育休 (R4.10.1~) |
|
取得義務 | 義務 | 努力義務 |
対象期間 取得可能日数 |
原則子が1歳(最長2歳)まで | 子の出生後8週間以内に4週間(28日)まで取得可能 |
申し出期間 | 原則1ヶ月前まで | 原則休業の2週間前まで (措置義務以上の取り組みの実施を労使協定で定めている場合、1ヶ月前にすることも可能) |
育児休業給付金 | 有り | 無し ※ただし、以下の場合は適用 休業期間中の就業日数が一定以下(休業が4週間の場合は10日以内) |
給与の支払い | 無し | 企業によって異なる |
社会保険料の支払い | 免除 | 適用 ※ただし、以下の場合は免除 当月の末日が休業期間、もしくは当月内の休業日数が14日以上 |
分割取得 | 分割して2回取得可能に改正 (取得の際にそれぞれ申し出) |
分割して2回取得可能 (初めにまとめて申し出必要) |
休業中の就業 | 原則就業不可 | 労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業可能 |
1歳以降の延長 | 育休開始日を柔軟化 (現行は育休開始日は1歳、1歳半時点に限定) |
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1歳以降の再取得 | 特別な事情がある場合に限り再取得可能 |
男性の育児休業率向上のため企業が対応すべきこと
男性の育休取得率がさらに増えれば、女性の仕事と育児の両立もおのずと実現していくでしょう。
そのためには、男性側の育児休暇に対する意識改革ももちろん大切ではありますが、受け入れる企業側の雇用環境整備も必要です。
では、企業ができる対応にはどんなものがあるのでしょうか。
具体的な施策と導入方法を紹介します。
・研修
→育児休業産後パパ育休に関する研修の実施
・相談体制
→相談窓口設置、相談対応者の選任をしたのち、労働者へ周知
・方針表明
→育児休業に関する制度&育児休業取得促進に関する方針の策定したのち、労働者へ周知
・事例収集・提供
→収集した自社の育休取得事例を労働者へ周知
これらは最低でも1つは実施、可能であれば複数実施をしましょう。
さらに、2023年4月には育児・介護休業法が改正され、育児休業取得率状況の公表が義務化されました。
・育児休業取得状況の公表
→従業員が1000名以上の企業主は男性従業員の育児休業等の取得状況を年1回公表が義務化
この法改正によって男性の育休取得への意識が高まり、取得率増加が見込めるのではないかと考えられます。
従業員が長く働き続けられる環境整備を!取組み企業が受けられる助成金って?
従業員がいきいきと長く働ける環境づくりには、企業側からの支援も必要です。
また、就業環境整備に取り組んだ企業は助成金が支給されるため、従業員にとって働きやすい職場づくりと企業の成長を促す手段になると考えられます。
① 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
・男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境の整備措置を複数実施
・産後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得すること
・代替する労働者の残業抑制のための業務見直しなどが含まれた規定に基づく業務体制を整備すること
主に中小企業を対象とし、上記を実施した場合原則20万円の支給、また代替で新規に要員を増加した場合には、20万円をさらに支給、3人以上増員した場合は最大45万円が1回限りで支給されます。
② 育児休業等支援コース
全ての条件で中小企業事業主を対象になり、「育休取得・職場復帰時」、「業務代替支援」、「職場復帰後支援」の3パターンがあります。
・対象の従業員と面談をし、育児状況や今後の働き方等の希望を面談結果に記録した上でプランを作成。プランに沿って円滑な育児休業の取得と職場復帰に取り組んだ結果、従業員が育児休業を取得した場合
・育児休業取得者の業務を代替する労働者を確保し、かつ育児休業取得者を原職等に復帰させた場合
・育児休業から復帰後、仕事と育児の両立が特に困難な時期にある労働者のため、制度導入(子の看護休暇・保育サービス費用補助制度)などの支援に取り組み、利用者が生じた場合
また対象従業員が1か月以上の育児休業(産後休業を含む。)から復帰した後6か月以内において、導入した制度の一定の利用実績(子の看護休暇制度は10時間以上の取得また保育サービス費用補助制度3万円以上の補助)があること
まとめ
少子高齢社会と人口減少のなかで、企業は人材確保のためさまざまな施策を練っているのではないでしょうか。
しかし、人生のライフイベントの一つとして結婚・出産があり、妊娠や出産を機に退職してしまう人も多いのが現状です。
また、いまだ男性の育児休業の取得率は女性に比べ少ない傾向にあります。
これは、男性の育児参加機会の少なさや企業の雇用環境が不十分であることが原因だと考えられます。
今回の法改正で、必要な場合に限り、休業中の就業も本人の意向により可能となる産後パパ育休が施行されたことにより、男性も柔軟に家事育児に参加できるようになりました。
また、従業員が安心して育児休業に入れるように企業が積極的に取り組みを導入することで助成金を得ることもできます。
さらに、2023年4月から男性の育休取得率などを年に1回公表することが義務付けられたため、制度を活用して環境を整えていきましょう。
今回の法改正で、働く男女ともにワーク・ライフ・バランスのさらなる実現・向上が期待でき、企業にとっても優秀な人材確保と離職防止につながるでしょう。
<参考>
厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」