みなさんの職場で採用しているストレスチェックの設問数はいくつでしょうか?
ストレスチェック制度が施行された当初、設問数は57項目(職業性ストレス簡易調査票)が標準でしたが、現在では80項目(新職業性ストレス簡易調査票)も多く用いられるようになりました。
57項目と80項目の主な違いは、個人のストレス評価に加えて、ワーク・エンゲイジメントやソーシャルキャピタル、ハラスメントなどの設問が増えたことで、より職場環境改善に役立つ情報を多く得られるようになった点です。
尺度数では20から42に増え、単純に2倍以上の情報量となりました。
具体性の高い改善策につなげるなどの理由から、ドクタートラストとの取引がある企業では、83.3%が80項目を採用しています。(2023年度)
今回は、さらに設問数の多い120項目のストレスチェックに触れることで、職場環境改善にはどのような事柄がキーとなるかを解説します。
新職業性ストレス簡易調査票とは?
ストレスチェックに用いる標準的な調査票(質問紙)には、以下の種類があります。
項目数 | 尺度数 | 内容 |
57項目 | 20尺度 | 職業性ストレス簡易調査票(現行版) |
80項目 | 42尺度 | 現行版+新版推奨尺度セット短縮版23項目 |
120項目 | 42尺度 | 現行版+新調査票推奨尺度セット標準版63項目 |
現行の職業性ストレス簡易調査票(57項目)に、項目数を追加したものが80項目と120項目です。
調査研究を行う場合には、120項目の使用が勧められますが、比較的項目数が少ない80項目は現場で導入しやすいとされています。
なお、3つの領域に関する項目(職場のストレス要因、心身のストレス反応、周囲のサポート)が含まれていれば、組織独自に設問を追加することも可能です。
新職業性ストレス簡易調査票80項目と120項目の違いとは?
では、120項目版は、80項目版にどのような設問が追加されたものなのでしょうか。
追加40問のうち、前半の21問をクローズアップしてみます。
E領域(仕事について)
80項目版の設問 | |
尺度 | 設問 |
働きがい | 働きがいのある仕事だ |
情緒的負担 | 感情面で負担になる仕事だ |
役割葛藤 | 複数の人からお互いに矛盾したことを要求される |
役割明確さ | 自分の職務や責任が何であるかわかっている |
成長の機会 | 仕事で自分の長所をのばす機会がある |
120項目版における追加設問 | ||
尺度 | 設問 | |
働きがい | 自分の仕事は意味のあるものだ | ☆ |
自分の仕事は重要だと思う | ☆ | |
情緒的負担 | 仕事の上で、気持ちや感情がかき乱されることがある | |
感情的に巻き込まれやすい仕事だ | ||
役割葛藤 | 自分が正しいと思うのとは違ったやり方で仕事をしなければならない | |
十分な人やモノがないまま仕事を割り当てられる | ||
役割明確さ | 自分にどれくらい権限があるのかはっきりしている | ★ |
自分の仕事で何をするべきかについて説明されている | ★ | |
成長の機会 | 仕事で新しいことを学ぶ機会がある | ☆ |
職場では、自分の技能を十分に高めることができる | ☆ |
F領域(職場について)
80項目版 | |
経済・地位報酬 | 自分の仕事に見合う給料やボーナスをもらっている |
尊重報酬 | 私は上司からふさわしい評価を受けている |
安定報酬 | 職を失う恐れがある |
上司のリーダーシップ | 上司は部下が能力を伸ばす機会を持てるように、取り計らってくれる |
上司の公正な態度 | 上司は誠実な対応で対応してくれる |
ほめてもらえる職場 | 努力をして仕事をすれば、ほめてもらえる |
失敗を認める職場 | 失敗しても挽回するチャンスがある職場だ |
120項目版における追加設問 | ||
尺度 | 設問 | |
経済・地位報酬 | 自分の能力や経験に見合った地位・職務に就いている | ☆ |
尊重報酬 | 同僚から、自分の仕事上のふさわしい扱いを受けている | |
安定報酬 | 昇進の見込みは少ない | ☆ |
職場で、好ましくない変化を経験している。もしくは今後そういう状況が起こりうる | ||
上司のリーダーシップ | 仕事の出来栄えについて、上司からフィードバックをもらっている | ★ |
上司は、私が自分で問題解決できるように励ましてくれる | ★ | |
上司の公正な態度 | 上司は独りよがりなものの見方をしないようにすることができる | ★ |
上司は親切心と思いやりをもって接してくれる | ★ | |
ほめてもらえる職場 | 仕事をきちんとすれば、ほめてもらえる | ★ |
あたりまえのことでも、できたらほめてもらえる | ★ | |
失敗を認める職場 | ピンチをチャンスに変えられる職場だ | ☆ |
※★は「上司の態度や言動」、☆は従業員の「適性や成長」
上記の追加設問は、現行の職業性ストレス簡易調査票(57項目)に、新職業性ストレス簡易調査票の推奨尺度セット標準版(63項目)を追加した42尺度120項目の調査票のサンプルから抜き出したものです。
上記の21問は、80項目版に加えてE領域(仕事について)とF領域(職場について)に関して、さらにその詳細を問う設問で構成されています。
新職業性ストレス簡易調査票「120項目」の前半21問からわかること
21問は、大きく2つのテーマに分けられます。
それぞれ★☆のマークを記しました。
★の内容
★は「上司の態度や言動」に関する内容です。
仕事上の必要な説明といった業務的な支援や、部下へ適切なフィードバックを行う・励ます・褒めるといった精神的な支援がどれくらいあると感じられているかが問われています。
★の設問からは、組織での上司が部下に与える影響の強さがわかると同時に、上司の態度や言動がより良い職場環境づくりにいかに重要な要素であるかがわかります。
☆の内容
☆は従業員の「適性や成長」に関する内容です。
自分の能力や経験に見合った納得できる地位・職務についていることは、現状の満足度に直結します。
また、自分の仕事は重要で意味のあるものだと思えることは、働きがいや自信にもつながるでしょう。
そして、新しいことを学べる環境で将来を見据えることは、成長に欠かせない要素です。
☆の設問からは、「適性や成長を感じられることがより良い職場環境づくりにいかに重要な要素であるか」がわかります。
「適性や成長」を感じるために「上司の態度や言動」が重要
上記21問の内容から、職場環境改善にはどのような事柄がキーとなるかがわかります。
中でも、褒めることや適切なフィードバックの実施は、上司の大きな職務の一つです。
かの有名なアドラー心理学では、「相手を褒めない」としていますが、これは上から目線で相手に判断や評価を加えないという意味です。
職場でも同様で、「褒める」という行為は、「評価を与える」のではなく、「部下の支援をする」ためにとても重要であると考えられています。
「あなたの存在がどのようにチームに役立っているのか」「管理職としてあなたのどのような業務や姿勢に助かっているのか」など、日頃当たり前と思われるような業務や事柄であっても、きちんと言葉にして伝えることが大切です。
また、★の行動により、上司から尊重されていることが実感できるため、自己肯定感や「ゆるがない自分」も備わります。
これこそメンタルヘルス不調と対極の状態と言えるのではないでしょうか。
そして、自己評価は他者評価によって確信となり、自信が持てると、部下は主体的に望ましい行動を起こすようになります。
「なぜその仕事をするのか」がわかるようになり、個人的な仕事の意義や価値を見出したり、使命感を持って困っている人を助けたり、どんどん新しい発想が生まれていきます。
また、仕事に誇りを持ち、自らより良いキャリアを目指していくでしょう。
これらは☆の「適性や成長、キャリア」などの獲得と通じていますね。
つまり、「上司の態度や言動」こそが「適性や成長」を感じるために必要な要素なのです。
まとめ
今回は、ストレスチェック120項目版から職場環境改善のヒントを見ていきました。
実際の設問を見ると一目瞭然で、設問内容がそのまま職場環境改善の行動指針となっています。
設問には、メンタルヘルス不調を予防したうえで、従業員がいきいきと健康に働くことのできる望ましい職場の状態が記載されています。
つまり、これらの設問に対して良好な回答ができるほど、良い職場環境であることを示します。
国家公務員の人事管理を行う行政機関である人事院の規則にも、上司には職務として「部下を支援すること」や「部下の健康管理をすること」が定められており、上司の存在が良くも悪くも部下に影響を与えることがわかります。
また、仕事の適性や成長を感じられるかについても、上司の態度や言動が大きな影響力を持つことは120項目版の設問から見てとれました。
120項目版のストレスチェックを採用しない職場でも、その設問内容を参考にして、望ましい職場環境づくりに必要な事柄について理解することが大切です。