2024年度で義務化から9年目を迎えたストレスチェック。
ドクタートラストでは「結果を踏まえどのような対応していくべきか」など、企業からのご相談を多くいただいております。
そこで本記事では、そもそもの制度の目的はもちろん、高ストレス者へのフォローを含め、企業が行うべき対応についてご紹介いたします。
職場におけるストレスチェック制度とは?
ストレスチェックは、精神障害を原因とする労災認定件数増加を受け、より積極的に労働者の安全と健康を確保するため、2015年12月以降、常時50名以上の労働者を雇用する事業場で実施が義務づけられました。
ストレスチェック実施の目的は、受検者側と企業側で異なります。
つまり、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」が主な目的です。
ストレスチェックの「高ストレス者」とは?
皆さまがストレスチェックの中で最も気になるであろう「高ストレス者」は、早急な対策を行うべき対象者です。
そもそも高ストレス者とは何なのでしょうか。
そこで、まずはこの高ストレス者の選定基準と、放置してしまうことで起こり得るリスクについて見ていきましょう。
高ストレス者と選定される基準
高ストレス者の選定方法は2パターンあり、いずれかを満たす者が「高ストレス者」となります。
つまり、すでに心身に著しく負担を感じている人だけでなく、それほど心身への負担を感じていなかったとしても、業務量などのストレス要因が多かったり、ストレスを和らげる周囲からのサポートが少なかったりする人も高ストレス者に判定されるということです。
高ストレス者を放置するリスク
上述のとおり、高ストレス者はすでに著しく、もしくはある程度の心身の負担を感じているため、放置するとメンタルヘルス不調、休職、退職のリスクが高まります。
また、休職や退職までに至ってしまうと人材不足はもちろん、休職者の業務調整による他労働者への負担増加、人材採用や育成にかかるコストの発生も予想されます。
つまり、高ストレス者の放置は本人だけではなく、その周囲の人々や会社全体にまで影響を及ぼすということです。
そのような事態に陥らないためにも、企業は集団分析結果を参考に、自社の課題を見極め課題解決に取り組む、職場環境改善が必要といえます。
ストレスチェックで高ストレス者に行う面接指導とは?
ここまでで、高ストレス者へのフォローが必要であることはご理解いただけたと思います。
続いては、具体的な対応となる高ストレス者への面接指導について見ていきましょう。
面接指導は誰が行う?
高ストレス者に面接指導を実施するのは「医師」です。
具体的には常時50人以上の従業員を雇用している事業場であれば、選任している「産業医」が推奨されています。
しかし、選任義務のない事業場であれば、産業医資格を有する医師のいる地域産業保健センターを利用することも可能です。
面接指導では何を話す?
面接の中で主に医師に伝えるべきことは下記3つです。
① 勤務状況(業務上のストレスについて)
② 心理的な負担の状況(抑うつ症状などについて)
③ その他心身の状況(生活習慣・疾病について)
これらの情報をもとに医師からストレスへの対処方法についてアドバイスを受け、セルフケアに役立てることで、自身のメンタルヘルス不調の防止に役立ちます。
また、ストレス要因が職場内にある場合、職場環境改善について医師から企業側へ提言してもらうことができ、必要であれば就業上の措置を講じてもらうことにもつながります。
適切な面接指導を受けるためにも、自分が今どんな状況で、どんな気持ちで働いているのか、しっかりと伝えましょう。
面接を申し出ない高ストレス者へのフォローはどうする?
ストレスチェックの制度上、企業が高ストレス者へ直接対応を行うには、本人から面接指導の申し出をしてもらう必要があります。
つまり、申し出がなかった場合は直接対応ができませんが、さまざまなリスクを抱えた高ストレス者を放置することへの懸念は拭えません。
こうした状況でも企業側にできることはあります。
続いては、申し出をしなかった高ストレス者に対して企業が取れる対応を2つご紹介します。
面接勧奨
まず1つ目は、企業側から高ストレス者の心身の健康状態が心配なため、「可能であれば面接指導を受けて欲しい」と面接勧奨を行うことです。
同時に、面接を受けるメリット(医師から専門的なアドバイスをもらえ、企業としても対策の措置を取るきっかけにもなるなど)を示すことも効果的です。
しかし、面接指導を受けるか否かはあくまで個人の意思に委ねられており強制ではないため、その旨もきちんと伝えておきましょう。
勧奨の結果、面接を受けてもらう場合は、周囲に高ストレス者であることや、面接指導を受けることがわからないような配慮も重要です。
面接対象者は想像以上に自身が高ストレスと判定されたことや、医師と面接を行うことが周囲からどのように見られるかを気にします。
こうした周囲からの視線が面談をためらう理由になっていることも多いため、実施の際にはできる限りの配慮を行い、安心感を持って面接を受けてもらえる環境づくりを心掛けましょう。
相談窓口の設置
2つ目は、電話やチャットなど非対面でも実施可能な相談窓口を設置することです。
周囲の人に知られる心配がなく、いつでもどこでも相談できるためハードルが下がります。
また、窓口を内部と外部どちらに設置するのかでも、相談のしやすさが変わります。
たとえば外部に設置する場合、「内部の人には話しづらいことが外部の人だからこそ相談できる」といったメリットがあります。
高ストレス者の面接指導後、会社がすべきことは?
「医師に面接指導をしてもらったら終了!」というわけではありません。
きちんと面接指導に基づく医師からの意見を聞き、必要に応じた対応を取りましょう。
医師からの意見を聴取し、就業上の措置をとる
面接指導実施後、遅くとも1か月以内には意見聴取を行いましょう。
ただし、ストレス状況や健康状態から緊急に就業上の措置を行う必要がある場合には、可能な限り速やかに実施すべきでしょう。
就業上の措置は、労働時間の短縮、時間外労働の制限、出張制限、業務量の調整、配置転換など多岐に渡ります。
医師や本人としっかり話し合い、措置に対する本人からの理解を得られるよう努め、状況を見極めた上で、適切な措置を行いましょう。
従業員を不当に扱ってはいけない
ストレスチェックは制度上、その結果を用いて従業員に対する不利益な取扱いを行うことを禁止しています。
当然ながら、面接指導を希望したことや、その場で話した内容から不利益な取扱いを行うことも同様です。
しかし、面接指導に基づく就業上の措置の中には、従業員にとって不利益となるものの、それ以上に健康確保の必要性が高いなど、内容によっては合理的な取扱いである場合も考えられます。
その場合でも上述のとおり医師による面接指導や意見聴取など定められたプロセスを経なければ、「不利益な取扱い」とされてしまう可能性がありますので、企業側はしっかりと留意しておく必要があります。
個人情報の取扱いに注意
ストレスチェックを行う中で得た個人情報は、取得に当たり本人からの同意が必要であり、第三者提供する場合にも同様に原則本人からの同意が必要な「要配慮健康情報」です。
取扱いを行う者についてはあらかじめ衛生委員会などで調査審議の上、企業が指名し、すべての従業員に周知することが定められています。
なお、ストレスチェック結果は詳細な医学情報を含むものではないため、医療職ではなくても取り扱うことが可能です。
一般的には実施事務従事者が取り扱っていることが多いでしょう。
しかし、当然ながら秘密保持義務が課せられますので、本人の同意なく結果を漏らしたり、ストレスチェックとは別の目的に使用したりすることは禁じられています。
まとめ
ストレスチェック実施義務のある企業は年に1回必ず実施しなくてはいけません。
せっかくストレスチェックをやるなら、従業員の思いが詰まったデータを有効活用して、全員がよりいきいきと健康に、生産性高く誇りをもって働くことのできる環境づくりに役立ててみてはいかがでしょうか。
その中でお悩みやお困りごとがあれば、ぜひ産業保健のスペシャリストが集まるドクタートラストへご相談ください。
皆さまが考える「働きやすい職場」を目指して、一緒に取り組んでいける道を見つけましょう。
<参考>
・ 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(PDF)」
・ 厚生労働省「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項(PDF)」