研究レポート

健康経営に効果的な「ナッジ」を企業で取り入れよう!

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近年、産業保健業界で「ナッジ」が注目されています。
日常生活ではあまり聞かれることがなく、「自分には関係ない」と考えてしまいがちですがそんなことはありません。
「ナッジ」を上手く活用することで、健康づくりやマーケティング活動などさまざまな分野に利益をもたらすことが可能になると考えられています。

では、一体「ナッジ」とは何でしょうか。
その効果や、企業が簡単に実践できるナッジについて詳細に解説していきます。

ナッジとは?

「ナッジ」とは、行動経済学の概念であり、強制ではなく自ら望ましい行動がとれるように後押しするアプローチを指します。

健康への意識レベルは人それぞれ異なります。
保健指導で健康リスクが高い人(不健康な人)への生活習慣の改善を推奨しても、本人の意識改革をしていくのは容易ではありません。
組織全体へアプローチを行った場合、健康リスクが低い人(健康な人)の生活習慣は改善していきますが、リスクの高い人は変わらない場合が多いのです。
結果的に、一見すると組織全体の健康リスクは下がったように見えますが、実際には健康リスクが高い人の生活習慣は改善していません。
そこで、無意識のうちに健康意識の高い行動に向かわせるナッジが注目されるようになったのです。

日常におけるナッジ効果とは?

私たちが日常生活を送るなかで、無意識に「ナッジ効果」によって行動が誘導されていることがしばしばあります。

ナッジは大きく2つのパターンに分類できます。

「情報提供型」
言葉で指示するのではなく、適切な情報を提供することで潜在意識や感情を誘導する

「デフォルト設定型」
あらかじめ初期設定をすることで確実に望ましい結果へ誘導する

それぞれ、多くの方が一度は経験したことのある事例と効果をご紹介します。

情報提供型

あるお店では顧客が一定の間隔をあけて並ぶように線や足跡の印をつけています。
これは、定員が言葉で誘導するのではなく、目で見て自然と間隔をあけて並ぶように促しています。
コロナ禍でソーシャルディスタンスの重要さが唱えられるようになって以降、あちこちで見かけるようになりました。

デフォルト設定型

ほとんどの飲食店にはコースやセットメニューがあります。
これらは何を注文したら良いか悩む顧客にとっては非常に親切であり、コースやセットメニュー(あらかじめ設定しているデフォルト)を選択すると、栄養バランスや食事量の調整に失敗することなく食事を楽しめます。
また、お店にとっても食材の在庫管理がしやすく、お店のおすすめを味わってもらえるためリピート率向上にもつながるでしょう。

ナッジを活用した事例

実際に企業や自治体がナッジ効果を利用した企業の事例をご紹介します。

事例① Google社の取り組み

消費者庁では、令和2年度の食品ロス量は522万トン、このうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は275万トン、一般家庭から発生する家庭系食品ロス量が247万トンと発表しています。
これは、飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料支援量である420万トンの1.2倍に相当します。

そこで、IT業界最大手のGoogle社では、社員食堂で使用するお皿を通常の丸皿から面積の小さい皿に変更しました。
その結果、食べ残しを最大7割削減することに成功したのです。
私たちは、普段食べ物を残すことでどのような影響が出ているかをあまり考えません。
このようなちょっとした取組み(ナッジ)を行うことで、飢餓に苦しむ人々への手助けや環境負荷軽減につながります。

事例② 株式会社コソドの取り組み

近年、たばこのポイ捨てによる火災や道に落ちたタバコを拾う清掃業者の人出不足が問題視されています。
国立がん研究センターでは、2019年時点で全国の成人喫煙率は16.7%、内訳としては男性が27.1%、女性が7.6%と発表しており、たばこ税の増税や喫煙所の減少があるものの、現状の喫煙率は下げ止まりしている傾向にあります。

そこで、たばこのポイ捨てをなくす社会実現を目指す株式会社コソドでは、長野県松本市の高校生と協働して、「投票型喫煙所」の実証実験を行いました。
これは、ナッジの効果を上手く活用して、「楽しみながらポイ捨てを減らすこと」を目的としています。
投票型喫煙所では、「人生に大事なのは金か、愛か」など誰もが悩む究極の2択を表示した灰皿を用意することで、喫煙者自身が能動的にたばこを灰皿へ捨てたくなるよう促します。
その結果、松本市内のタバコのポイ捨ては平均で約4割減少しました。
また、株式会社コソドは以前にも渋谷で同様の取り組みを行い、ポイ捨ての本数を約8割減らしており、廃棄物の削減や火災防止、街の美化への意識改革に非常に大きな成果をあげています。

良いナッジ?悪いナッジ?見極めが大切!

一般的には私たちが望む行動へ導いてくれる「ナッジ」ですが、なかには無意識のうちに不利な選択へ導く、または望む行動を取ることを妨げる「逆ナッジ(スラッジ)」があります。
これは私たちが働くなかでも簡単に起こる可能性があります。

たとえば、社員の目標数値を高く設定したせいで、仕事量や業務内容でキャパオーバーになってしまい、メンタルヘルス不調に陥ってしまうケースがあります。
この場合、会社側に悪気が無かったとしても、結果的に社員や会社の不利益につながっているため「逆ナッジ(スラッジ)」であると言えます。
社員のスキルや成長スピードに応じて一人ひとりに合った目標設定が必要でしょう。
では、何に気を付ければ逆ナッジ(スラッジ)を防ぎ、ナッジ効果を上手く活用できるのでしょうか。

見極める重要なポイントは2点です。

① ナッジ効果を悪用していないか
活用したいナッジの方向性について検討し、選択の自由を尊重した方法で進めること

② ナッジ行動を妨げていないか
意図的でなかったとしても無意識のうちに行動を妨げていることはよくあるため、行動プロセスや手段について随時確認し、改善していくこと

これらを踏まえた上で、「ナッジ」を上手く企業に活用していきましょう。

企業で取り組むべきナッジ理論

人は見たものを、直感で情報処理して思い込みをしがちな生き物です。
その特性を生かし、人に良い行動に促す「ナッジ」という手法を使うことによって、企業に利益をもたらすのではないかと考えられます。
ナッジ効果のメリットは以下のとおりです。

・自らの意思で自由に行動・選択できる
・導入にあたる費用が少なく効果が大きい
・しくみが簡単で取組みやすい

取り組みやすく費用対効果が大きいナッジを応用していけば、企業はマネジメントにかかる時間や費用を最小限に、社員は自発的に自らの力を最大限発揮してくれるでしょう。

社員一人ひとりのスキルアップを目的とした場合のナッジ効果を活かす具体例とポイントをご紹介します。

① 目標を細かく設定する

初めから大きな目標を設定してしまうと、プレッシャーや不安から十分に実力を発揮できないケースがあります。
目標を段階ごとに細かく設定することで、目標達成に必要なスキルの習得が容易になり、達成までの速度も早まるでしょう。
何度も達成感を味わえるためモチベーション向上にもつながります。

② 適切なフィードバックを行う

フィードバックでは、自らの課題に気づき、改善するために考えることで成長を促します。
また、一方的な指導や評価を話すだけではなく、社員一人ひとりの意見に耳を傾け、上司も一緒に改善策を考えていくことで信頼関係向上にもつながります。

③ 定期的にリマインドを行う

チーム内で多くのタスクを担っている人は目標を見失うこともあるでしょう。
チームの目標や今抱えている業務の方向性を統一させるために、社員同士が方向性を再認識できるリマインドの実施が有効です。
リマインドを行うことでコミュニケーション活性化やパフォーマンス向上が期待できます。

まとめ

社員一人ひとりに望ましい方向への行動を促す「ナッジ」は、近年、日常生活と同じくらいビジネスシーンでも多く見受けられるようになりました。
企業の活用の仕方次第で、小さな取組みが人の良い行動を促し、大きな影響を与えるでしょう。
ただ、最終的に達成したいのは目標であり、「ナッジを上手く活用すること」自体が最終目標ではありません。
ナッジはあくまで「目標を達成するための有用な手法」であることを忘れないようにしましょう。

ABOUT ME
【アナリスト】千葉 晶子
【コメント】新卒で入社した会社のメンタル不調者が多かったことから、働き方や職場環境について興味を持つようになりました。ストレスチェックを通じて、一社でも多くの職場環境改善に繋がればと考えています。多くの人々が健やかに働くことができるよう、情報発信していきます。