近年「適応障害」と診断される人が増えています。
適応障害は、ストレスにうまく適応できず、気持ちの落ち込みや不眠など、さまざまな症状が現れる状態です。
自分や周囲の人が「適応障害」と診断されたときに、「気の持ちようだから」「我慢すれば時間が解決してくれる」と安易に考えていませんか?
ストレスの原因を我慢し続けたり、放置してしまうことで、症状が改善しにくくなったり、悪化してしまうこともあります。
この記事では、適応障害への理解を深めるために、ストレスとの関係性、職場の対応などにについて解説していきます。
適応障害とは?
適応障害とは、ストレスが原因となって心身の不調が現れ、社会生活に支障が生じた状態を指します。
ストレスの原因は、仕事、家庭、恋愛、学校、病気など多岐にわたります。
また、症状からうつ病と勘違いされやすいですが、適応障害の場合は明確なストレス原因によって発症し、その根本的な要因がなくなると症状が改善するのが特徴です。
一方で、うつ病の場合は、ストレスがなくなっても、症状が長続きすることが特徴です。
ICD-10(国際疾病分類第10版)の診断基準によると、適応障害はきっかけとなるストレスから3ヶ月以内に発症し、原因となるストレスがなくなれば6ヶ月以内に回復するとされており、日々の違和感や症状を見逃さない心がけが大切です。
適応障害を放置すると、症状が改善しにくくなったり、うつ病などほかの病気に進行してしまったりする可能性もあります。
適応障害の症状とは?
適応障害では、以下のような症状が現れます。
<精神的症状>抑うつ気分、不安、イライラ、集中力低下など
<身体的症状>めまい、動悸、不眠、食欲低下など
<行動面の症状>遅刻や欠勤、生活の乱れ、過度の飲酒など
適応障害では、「怠けているのではないか」「仮病なのではないか」と、周囲の誤解が生まれてしまうこともあります。
また、「気の持ちようだから」「我慢すれば大丈夫」と、誤った認識から放置されてしまうこともあります。
このような周りからの冷たい視線や理解されないことなどへの葛藤から、さらに自分自身を責めてしまい、症状が悪化する場合もあります。
本人や職場ができること
では、社員が適応障害となるのを防ぐために、何ができるでしょうか。
社員本人ができること
症状の早期発見のためには、やはり自身での気づきが最も大切です。
「まさか自分がかかるわけない」と自己判断するのではなく、適応障害を「誰にでも起こり得る心身の問題」として考えるようにしましょう。
体調がいつもより優れない場合は、無理をせずに上司や人事担当者、産業医へ相談することが予防への第一歩です。
職場ができること
社員の言動や行動に気を配る
他人から見ると凄く頑張っているように見えていても、ストレスが過度にかかっていたり、悩みを打ち明けられずに抱え込んでしまっていたりする場合があります。
普段仕事をしている仲間の小さな変化に気がつくのは容易ではなく、社員自身が「つらい」と言うときには、すでに心身の不調をきたしており、症状が進行しているかもしれません。
そのため、上司だけでなく同僚同士で日頃から声を掛け合い、簡単な雑談などを通して、普段と変わったところ(様子)がないかなどを把握することも大切です。
積極的にコミュニケーションをとりましょう。
ラインケア研修やハラスメント研修を行う
前述したような、社員の不調に気づくためにも、また、ストレスの要因となり得るハラスメントを起こさないためにも、ラインケアやハラスメントの研修を定期的に実施し、管理職の理解を促すことが重要でしょう。
ストレスチェックを十分活用する
適応障害を早期発見するための有効な方法のひとつに、年に1度のストレスチェックがあげられます。
ストレスチェックは、仕事や身体の状態、周囲のサポートなどに関する設問が用意されており、社員が日頃抱えるストレス具合をはかることが可能です。
現在は、常時50人以上いる事業場で実施が義務となっています。
ストレスチェック80問版ではハラスメントやワーク・エンゲイジメントなどの設問が用意されており、より詳細に社内の状況について把握することができます。
集団分析結果を上手く活用すれば、組織や部署ごとに問題点を抽出することができるため、職場環境改善のきっかけになるでしょう。
まとめ
ストレスは完全になくすことは難しいですし、適度なストレスであれば生産性を向上させることにつながります。
一方で、過度なストレスにより、適応障害となってしまうこともあります。適応障害の症状は人によって異なるため、気づきにくい場合もあります。
少しでも異変を感じたらすぐに上司や人事担当者、産業医などに相談することが大切です。
また、適応障害を早期発見するために日々のセルフケアやストレスチェックを活用していくことは、自分だけでなく会社を守ることにもつながるでしょう。
<参考>
・ 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所「こころの情報サイト」
・ 独立行政法人労働者健康福祉機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
・ 池田朝彦「日本における「適応障害」患者数の増加―メンバーシップ型雇用からの考察―」(「社会政策」2020年12巻2号)