ストレスを強く感じている従業員は、メンタルヘルス不調に陥る可能性が高く、離職のリスクも高まります。従業員の退職によるノウハウ・知識の喪失や採用・教育にかかるコストの損失は、企業にとって非常に大きな損害です。
こうした損失を防ぐためには、ストレスチェックが有効です。
この記事では、ストレスチェックが早期離職の予防に効果的である理由を解説していきます。
高ストレスが退職につながる
ストレスチェックでは「ストレスの自覚症状が高い人や、自覚症状が一定度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い人」を「高ストレス者」と判定します。
ドクタートラストが2023年度にストレスチェックを受検したおよそ48万人分のデータ(以下、2023年度ストレスチェックデータ)を分析したところ、以下の5設問に「ちがう」と回答したうちの半数以上が高ストレス者と判定されていることがわかりました。
・職場の雰囲気は友好的である
・同僚はどれくらい気軽に話ができますか
・仕事に満足だ
・上司は誠実な態度で対応してくれる
・職場で自分がいじめにあっている(セクハラ・パワハラを含む)
これら5設問は高ストレス者判定と結びつきが強く、「高ストレス者を生み出す原因、要素」と考えられます。
また、高ストレス者に対しては、その後なんのケアもせず放置しておくと、以下のような経過をたどり、退職してしまう可能性があります。
【高ストレス状態】
↓
【心身の不調】
↓
【モチベーション低下】
↓
【生産性低下】
↓
【メンタルヘルス不調】
↓
【退職】
つまり、「高ストレス」を防げば、退職を防ぐと言えるのではないでしょうか。
さらに、ストレスチェックの結果を基にして、高ストレスを防ぐ、ひいては退職者を減らすために企業ができることをわかりやすく解説します。
離職理由と高ストレス者の選定基準は酷似している
独立行政法人労働政策研究・研修機構が2017年に公表した「調査シリーズNo.164 若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)」によると、ライフイベントを除く「離職理由」として、以下が上位に挙げられていました。
<離職理由>
・肉体的・精神的に健康を損ねた
・労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった
・人間関係がよくなかった
・自分がやりたい仕事とは異なる内容だった
出所元:独立行政法人労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.164若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)」p86
また、ストレスチェックは、一般的に以下の①および②に該当する人を高ストレス者と判定し、おおむね全体の10%程度を選定します。
① 「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が高い者
② 「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が一定以上であり、かつ「仕事のストレス要因」および「周囲のサポート」に関する項目の評価点の合計が著しく高い者
「離職理由」として上位に挙がっているのは、高ストレス者選定基準となる3領域(心身のストレス反応、仕事のストレス要因、周囲のサポート)と非常に似かよっており、これは、先にご紹介した「高ストレス者の経過」から納得できるものと考えられます。
では、どのような職場環境であれば、高ストレス者、そして退職を防ぐことができるのでしょうか。
従業員の望みは、「個人の尊重性」と「キャリア形成」
2023年度ストレスチェックデータによると、従業員の仕事の満足度を高めるために注力すべき関係性の高い尺度の上位は、以下のとおりでした。
<優先して改善すべき職場環境ランキング>
1位:個人の尊重性
2位:キャリア形成
3位:成長の機会
3位の「成長の機会」は、「仕事で自分の長所をのばす機会があること」を意味し、広義には「キャリア形成」と捉えられます。
つまり、従業員の仕事の満足度を高めるうえでは「個人の尊重性」と「キャリア形成」への注力が何より重要なのです。
「個人の尊重性」と「キャリア形成」に着目しよう
以下では、ストレスチェックにおける「個人の尊重性」と「キャリア形成」を詳しく見ていきます。
1.個人の尊重性
「個人の尊重性」は、一人ひとりの長所や得意分野、価値観などを考えて仕事が与えられる風土や方針があることを指します。
2.キャリア形成
「キャリア形成」は、従業員のキャリアについて、人事方針や目標が明確にされ、教育・訓練が提供されていることを指します。
また、キャリアは厚生労働省「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書において、以下のように定義づけられています。
「キャリア」とは、一般に「経歴」、「経験」、「発展」さらには、「関連した職務の連鎖」等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念として捉えられる。
引用元:厚生労働省「「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書」
つまりキャリア形成は、職業経験だけでなく、仕事に取り組むプロセスの中で身につける知識・技術、それに人間性やプライベートも含めた自分自身の生き方を磨いていくことであり、職場のとしても以下の取り組みが欠かせません。
・人事評価制度などを通じて、「個人に求める能力」を知らせること
・職業ニーズと個人の能力とのマッチング
・職業は、従業員個人の自己実現を図るための手段であるという認識をもつこと
さいごに
キャリアを形成していくうえでは、自分の能力、価値観、存在が認められ、なおかつ活かせる場も必要で、結果的に「個人の尊重性」にもつながることから、両者は両輪のような存在といえます。
しかし、本当に従業員が「個人が尊重性されている」「キャリア形成への十分な支援が受けられている」と感じているかどうかは、肌感だけでわかるものではありません。
そのため、ストレスチェックによって、実際に従業員がなにを感じているのかを数値化することが重要になってきます
高ストレス、退職者を防ぐうえで何から着手すべきかお悩みの企業は、ぜひストレスチェックを実施し、「個人の尊重性」「キャリア形成」に注目した職場環境改善に取り組んでみてください。