「経営層から発信される情報の意図がつかみきれない」「現場のことを分かっていない」と感じる社員の方。社員との間に距離を感じる経営層の方。立場の違いが生み出す意識の差はあって当然かもしれませんが、そのギャップは少しでも埋めていきたいものですよね。
「経営層との信頼関係」を考えるうえで重要なのは、役職や立場を問わず信頼関係が築けているかどうかです。
今回は「経営層との信頼関係」に着目し、ストレスチェックデータから紐解いていきます。
「経営層との信頼関係」に強く関係している「個人の尊重性」「変化への対応」
ストレスチェック80項目版で調査する42の尺度のなかから「経営層との信頼関係」(設問:経営層からの情報は信頼できる)を基準に、その他の尺度とどのくらい相関があるのかを調査しました。
下図は2022年度、2023年度の「経営層との信頼関係」と他の尺度との相関係数から、上位5つの尺度を示しています。
順位 | 尺度 | 2022年度 | 2023年度 |
1 | 個人の尊重性 | 0.55 | 0.55 |
2 | 変化への対応 | 0.53 | 0.54 |
3 | キャリア形成 | 0.49 | 0.49 |
4 | 公正な人事評価 | 0.49 | 0.49 |
5 | 多様な労働者への対応 | 0.45 | 0.45 |
※株式会社ドクタートラストが実施した2022年度、2023年度ストレスチェック80問受検者より
2022年度:213,626人
2023年度:273,696人
「経営層との信頼関係」と正の相関があるとされる尺度は、上位から「個人の尊重性」「変化への対応」「キャリア形成」「公正な人事評価」「多様な労働者への対応」となり、2年連続同じ傾向がみられました。
これら5つの尺度の設問文は、それぞれ以下の通りです。
「個人の尊重性」:一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ
「変化への対応」:職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている
「キャリア形成」:意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている
「公正な人事評価」:人事評価の結果について十分な説明がなされている
「多様な労働者への対応」:職場では、(正規、非正規、アルバイトなど)色々な立場の人が職場の一員として尊重されている
上記の結果から、以下の2点が「経営層との信頼関係」に関連していると考えられます。
・従業員の意見や価値観をふまえ、経営層からの発信がなされていること
・人事評価の説明に納得ができ、自身のキャリア形成のイメージが持てること
経営層からの発信はプロセスを大切に
経営層との距離感は組織によってさまざまです。
そのなかで、社員一人ひとりと向き合うにはどのようにすれば良いでしょうか。
社員数が増え、企業規模が大きくなればなるほど、一人ひとりの異なる意見や価値観と向き合うことは現実的ではないように感じます。
そこで大切にしていただきたいのは、「経営層から発信される内容に意見が取り入れられたかどうか」という結果ではなく、「そのプロセスに社員の意見を吸い上げる機会があったかどうか」という視点です。
「社員の意見を吸い上げる」機会をつくる
突然トップダウン式に「来週から○○に変更します!」と発信されても、受け手側である社員としては、そこに至るまでの経緯や目的が見えにくいため、やらされ感、やる気の喪失につながる可能性が非常に高まります。
しかし経営層から、その先のビジョンについて話を聞く機会や、社員から意見を伝えられるツールがあれば、同じトップダウン式の発信でも、社員の受け取り方が変わってきます。意見を伝えられたことで当事者意識が生まれ、その仕事の目的を達成するために、前向きに取り組む姿勢を見せてくれる可能性が高くなるでしょう。
また、自分の出した意見が取り入れられた際には、その決定に携わった達成感や充実感から、ワーク・エンゲイジメントの向上にもつながるかもしれません。仮に自分の出した意見が取り入れられなかったとしても、決定するまでのプロセスに関われたと社員が感じることができるのが重要なポイントです。
さらに、社員の意見に耳を傾ける姿勢が社内に伝わると、さまざまな社員が自発的に意見を出す組織に変化していけるのではないでしょうか。
経営層や管理職に必要なのは社員との「共有」
「公正な人事評価」「キャリア形成」は経営層との信頼関係に関わる項目ですが、実際に評価の説明を行う管理職のスキルについても重要になってきます。
管理職は、経営者と一般社員の中間の立場にいるため、両者の発言に耳を傾けて的確に情報を伝えることが重要ですが、その際には、経営層が目指すビジョンをもとに、どのようなチームにしたいのかを、社員に共有していくことが求められるのではないでしょうか。