テレワークが普及し、会社外で仕事をすることが当たり前の考えになった今、“つながらない権利”という言葉が少しずつ注目されるようになりました。
しかし、どのような権利なのか、権利の必要性などを理解している人はまだまだ少ないでしょう。
今回は、”つながらない権利”とは何か、実際に働いている従業員の声や実現するために企業はどう対応すべきかを解説していきます。
“つながらない権利”とは
つながらない権利とは、業務時間外における業務上の連絡を拒否する権利のことを言います。
フランスでは2017年から従業員50人以上の企業は、業務時間外のメールの取り扱いについて労使で協議するよう義務づけられています。
また、オーストラリアでは2024年2月、従業員が業務時間外に仕事の連絡を無視しても不利益な扱いを受けないという連絡遮断権が認められるようになりました。
日本ではいまだ法制化されていないのが現状です。
コロナ禍以後、テレワークを中心とした柔軟な働き方によって業務時間とプライベート時間の区別が付けにくくなり、業務時間外でも会社や取引先からの連絡への対応が求められるようになりました。
そのような状況の中でつながらない権利は働き方改革を推進させる一策になるのではないかという観点から自主的な取組みを行う企業の動きが活発化してきています。
つながらない権利の背景
従来、業務時間外であれば家に持ち帰り業務をしない限り、職場を出てしまえば連絡を取らない働き方が一般的でした。
しかし、情報通信技術の発展、つまりスマホやタブレットがあればメールやSNSなどでいつでもどこでも業務を行うことが可能になり、考え方も「業務時間外では仕事から解放されることが当然」から「業務時間外でも関係なくいつでもどこでも連絡を取れることが当然」にシフトしていきました。
ただ、時間や休日を問わず仕事の連絡を取れる状況にあるのは、年中無休のオフィスにいるのと変わりません。深夜に連絡が来れば、寝る直前でも対応し、寝ている間も「もしかしたら連絡がきているのではないか」と心が落ち着かず、睡眠の質低下につながりかねません。
休日の会社からの連絡について従業員の声は?
では、実際に働く従業員は業務時間外の連絡についてどう感じているのでしょうか。
株式会社パーソル総合研究所が2023年8月に発表した「第8回 テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によると「業務時間外の連絡に対して、すぐに対応を要求されたことがあったか」の問いに対して、「毎回ある」「しばしばある」「たまにある」と答えた人は全体の58.4%に上りました。
また同調査によると、勤務時間外の連絡に関する社内規則があるのは31.0%にとどまり、内訳としては「顧客・取引先に対して、対応可能な時間を案内している」が最多の8.6%でした。
“つながらない権利”を実現することで得られるメリット
では“つながらない権利”を導入したら企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
① 従業員の心身のストレスを減らす
業務時間外の連絡を取らないことで精神的なストレスが減り、睡眠の質も上がります。また、しっかりと睡眠時間を確保できることで仕事に対するモチベーションや集中力が増し、組織としての生産性向上が見込めるでしょう。
② パワハラ、リモハラ防止につながる
テレワークの働き方が増えたことからリモートハラスメントの事案がさらに増えました。また、業務時間外の連絡に応対しなかったことによる上司のハラスメントも同様に増えています。上司による過度な監視や早朝・深夜関係なく必要以上に連絡を取ることもハラスメントに該当する場合があります。このことから従業員をハラスメントから守る手段の一つとして“つながらない権利”の導入が有用といえるでしょう。
まとめ
コロナ禍以降、テレワークという新しい働き方が浸透したことにより、いつでもどこでも連絡が取れるようになったことでワークセルフバランスが取れるなどの良い点は多々あります。反面、業務時間外の連絡が心身の負担となり結果的に従業員の睡眠の質低下につながっているのも事実です。そのような状況のなかで業務時間外における業務上の連絡を拒否する権利(つながらない権利)が注目されるようになりました。つながらない権利が実現できれば従業員の心身のストレス低下、ハラスメント防止につながると考えられています。しかし、休日や夜間も対応しなければならない職種もあるため一律のルールを制定することは難しく、日本ではまだ法律化されていません。
企業として連絡業務・フローの見直しを行った上で業務時間外は出来る限り仕事とつながらない環境を作っていくことが重要です。その結果、従業員の休息の質が上がり、業務時間における十分なパフォーマンスが発揮につながるのではないでしょうか。
<参考>
株式会社パーソル総合研究所「第8回 テレワークに関する調査/就業時マスク調査」