研究レポート

「ハラスメント」を感じている年代は?ストレスチェックデータから職場環境を考える

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ドクタートラストのストレスチェック研究所では、ストレスチェックサービスを利用した累計254万人のデータを活用し、さまざまな分析を行っています。今回は2023年度に80項目のストレスチェックサービスを利用した受検者約27万人の結果を分析し、ハラスメントに関する設問と高ストレス者や健康リスクとの関連について、特徴を導き出しました。

ストレスチェックにおけるハラスメント設問

ストレスチェックの80項目版には「職場のハラスメント」について言及する設問として「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」が設けられ、「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4段階で回答します。
この設問について、全国の回答分布をみると、「そうだ:1.3%」「まあそうだ:4.3%」「ややちがう:15.9%」「ちがう:78.4%」となり、今現在、何らかのいじめについて自覚がある人は、「そうだ」「まあそうだ」を合わせるとおよそ5.7%であることがわかります。

年代別での回答分析

ではこの設問への回答傾向を年代ごとに分析してみましょう。
不良な回答率(そうだ、まあそうだ)が最も少ないのは20代で4.3%、逆に不良回答率が最も多いのは50代で7.6%となりました。

職場で自分がいじめにあっている
(セクハラ、パワハラを含む)
10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 全年代
良好回答率
(ちがう、ややちがう)
95.2% 95.7% 94.3% 93.7% 92.4% 94.4% 95.4% 94.3%
不良回答率
(そうだ、まあそうだ)
4.8% 4.3% 5.7% 6.3% 7.6% 5.6% 4.6% 5.7%

 

「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」の不良回答率(そうだ、まあそうだ)は以上のように10代(5.7%)から20代(4.3%)で減少に転じ、そこから50代(7.6%)に向けて増加、60代(5.6%)以降は減少傾向があるとわかりました。

本数値から見えること

2022年4月には、パワハラ防止法(改正・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)の施行により、相談窓口の設置など、パワハラ防止のための措置を講じることが中小企業、大企業にかかわらず義務づけられました。
各企業ではハラスメントの相談窓口案内や定期的な面談など、ハラスメント防止の対策を講じる必要があるわけですが、本研究のポイントは「中高年になるにつれてハラスメントを感じている人が多い」と結果が得られたことだと考えます。
パワーハラスメントという和製英語は2001年に初めて登場し、企業が原因となる社員の自殺や労災などの社会問題としてクローズアップされるようになり、今日では法律が整備されるほどにまで至りました。
こうした経緯を考慮すれば、パワハラに対する価値観や行動基準の習得の機会が少なく、認知や思考の柔軟性が徐々に難しくなる中高年になるにつれて、設問「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」について、「そうだ」「まあそうだ」と回答してしまう人が増えるとも考えられます。

現在はカスタマーハラスメントなど、ハラスメントの種類も多岐にわたり、○○ハラの多様化からコミュニケーション自体を恐れる管理職の課題もよく聞かれるようになりました。
もちろん、年齢を重ねるにつれ企業からの要求水準が高まることから、中高年ほどハラスメントを受けている可能性もあります。
それと同時に、VUCA時代(※)において、柔軟性や変化が求められることについていくことができず、「私だけがこんな目にあっている」「私の時代は違ったのになぜこのようなことを言われなければならないのか」といった思い込みによる不良回答を引き起こしている可能性も考えられます。
ハラスメントにはある程度明確な定義が定められている中で、ストレスチェック上での本設問はあくまで回答者の自覚を問うものです。
そのため、「そうだ=ハラスメント」とは限らないという点にも留意しておかなくてはなりません。

※物事が激しく変化し、複雑かつ曖昧な様子が続いて将来の予測が難しい状態を指す言葉。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字で構成されている

企業におけるハラスメント対策

ハラスメントの対策は、社員が「何がハラスメントで、何をしてはいけないのか」について、認識をきちんと持つことから始まります。しかし、役職や年齢、さまざまな価値観を背景に持つ人がいる中で、統一した認識を持つには、時間をかける必要があります。
今回の結果を踏まえて、企業がそのリスクを放置せずに、きちんと対応している姿勢をつくることが、企業を守り延いては健康な職場づくりにつながるといえるでしょう。
ドクタートラストのストレスチェック研究所では、ストレスチェックを通じたハラスメントについてのセミナーやハラスメントの起きづらい職場環境づくりについてのサポートも行っています。
もしストレスチェックの結果で気になる点がございましたら、いつでもご相談ください。

調査対象

調査期間:2023年4月1日~2024年3月31日
調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2023年度契約企業・団体の一部
全体:273,696人
10代:1,347人
20代:49,602人
30代:56,858人
40代:61,784人
50代:51,962人
60代:20,231人
70代:2,325人
不明:29,587人

ABOUT ME
【シニアコンサルタント】大沼 文音
【保有資格】産業カウンセラー/上級ハラスメントマネージャー 【コメント】典型的なブラック企業で数年働いた経験から「働きがい」や「仕事の楽しさ」は作ることができても、職場環境は一人の力ではつくることはできないと知り、楽しく働き続けられる職場環境に興味を持ちました。現在は産業カウンセラーとしての知識も活かし、多くの企業に携わりながら、皆が楽しく働ける職場づくりを目指しています。