2015年12月にストレスチェック制度が始まってから6年が経ちました。
近年でのコロナ禍によって私たちのストレス結果(メンタルヘルスに関する状態)はどのように変化したのでしょうか。
自分自身の状況も気になりますが、企業にとっても従業のストレス結果は最も知りたい情報の1つとも言えるかもしれません。
企業は、労働者からストレスチェックの同意書を得て初めて結果を得ることが可能になります。
しかしながら、同意書の取り扱いについては事業者、実施者、実施事務従事者ストレスチェックに関わるすべての人が十分に理解する必要があります。
本記事では、ストレスチェックの同意書の取り扱いにおける注意点や同意書の重要性について詳しく解説していきます。
ストレスチェック結果は個人情報!取り扱いについて
ストレスチェック結果は個人情報の中でも極めて慎重な配慮が必要であり、特に事業者への結果通知の同意書においては労働者が不利益を被ることがないよう取り扱わなければなりません。
「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」には以下のように定めが置かれています。
法第66条の10第3項の規定に基づき、事業者は、労働者が面接指導の申出をしたことを理由とした不利益な取扱いをしてはならず、また、労働者が面接指導を受けていない時点においてストレスチェック結果のみで就業上の措置の要否及び内容を判断することはできないことから、事業者は、当然に、ストレスチェック結果のみを理由とした不利益な取扱いについても、これを行ってはならない。
出所:心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
このように、ストレスチェックの結果を情報開示するためには、労働者本人の同意が必要であり、万が一本人の同意なく個人情報が漏れてしまった場合は、民事上の損害賠償責任に発展し、会社として法的責任を負い、信用度を失う可能性があるでしょう。
ストレスチェック同意書とは?
ストレスチェック同意書とは、労働者自身で確認したストレスチェック結果と同じ範囲内の情報を企業の事業者へ提供するか否かを示すものです。
図1は、同意書の例です。
労働者は、記入事項(所属・本人署名等)を記入し、企業の実施事務担当者へ提出することをもって結果開示に同意したことになります。
同意書が提出された際には、会社側は同意書の情報の取り扱いに十分注意をし、5年間保管することが義務づけられています。
図1
事業者は労働者からの同意を得て提供されたストレスチェック結果を労働者のメンタルヘルス状況に応じて就業上の措置として必要な範囲を超えて、同じ部署の上司や同僚に報告や提供をしてはいけません。
しかしながら、労働者のストレスチェック受検状況については個人情報の範囲に該当しないため、労働者の同意がなくとも事業者に提供することは可能です。
同意がなければ開示できない
ストレスチェック結果は職場環境改善を行うために非常に有用な情報です。
しかし、労働者本人の同意がなければ企業に開示することは原則禁止されており、会社側も労働者へ結果を開示するように強いることはあってはなりません。
また、同意したとしてもしなかったとしても、ストレスチェックでの回答結果や個人結果、面接申出の有無について人事評価や個人の信用度につながることはなく、不利益な取り扱いがなされることも決してありません。
ただ、後になって「やっぱり同意を取り消したい」、「実は同意をしていなかった」など労働者と実施事務従事者との間で認識の差異からトラブルが生じないように、同意するか否かについての確認を明確に行いましょう。
同意書を渡すタイミングと説明の仕方
同意書を取り扱う上で最も重要なのは、同意を得るタイミングです。
ストレスチェック開始前と後とでは結果の良し悪しによって労働者の情報開示への意思が変わることが予想されます。
そのため、同意取得をするタイミングとしては個人結果が本人に通知された後でなければなりません。
また、事業者の都合で同意を得ていないのに同意を得た等の虚偽の同意やストレスチェック実施前または実施時の同意取得、あらかじめ同意した労働者のみでのストレスチェック実施は禁止されています。
同意取得については、個人のプライバシーに関わる問題であるため、虚偽の同意や本人の理解が不十分な状況で得た同意にならぬよう実施前に実施事務従事者は、十分な説明をするように心がけましょう。
同意書の提出がない=同意とみなすのはNG
同意書の提出はあくまで本人の意思によるものが大原則です。
本人の同意書に対する理解が浅い場合や繁忙期のため同意書の存在を忘れていたなどの場合もあるため、実施事務従事者から同意書の提出期限の再周知を行うことは可能ですが、それでも同意書の提出がない労働者に対して提出を強要したり、同意したと勝手にみなしたりすることは禁止されています。
面接指導の申し出=同意とみなしてよい
同意書について最も勘違いしやすいのが、面接指導申出をした労働者の取り扱いについてです。
ストレスチェック実施後、高ストレス者と判定された労働者には、別途産業医との面談指導申出勧奨の案内が送られ、希望する場合、産業医との日程調整の上面接指導が実施される流れになります。
その際、面談指導を申し出たことによって、ストレスチェックの結果を事業者に情報開示することに同意したとみなされます。
「面接指導の申出」と「結果開示の同意」を別問題として理解している人が少なからずいるのではないでしょうか。
ただ、「面接指導は受けたいが、企業への結果開示はしたくない」という場合は、面接指導が行われる前に実施事務従事者が個別に説明し十分理解してもらった上で面接指導に臨んでもらうようにしましょう。
事業者が取得した個人結果は、どの範囲まで開示可能?
労働者の同意を得て取得した個人結果の活用目的はあくまで職場環境改善のため。事業者側の意図で無制限に開示することはあってはなりません。
衛生委員会では労働者側の出席が必要とされており、あらかじめ結果の活用目的や開示範囲等について事業者と労働者間で十分に意思統一されていることが大切です。
また、集団分析についても会社・部署単位での結果となり個々人の結果と直接結びつくわけではありませんが、同様の取り扱いであると認識しなければなりません。
同意書にサインしないとどうなる?
ストレスチェックの同意書にサインをしないと、「結果が悪かったから同意しなかったのか、と会社側に思われてしまうのではないか」や「不利益な扱いをされてしまうのではないか」等を恐れて同意することに抵抗を感じている方もいるのではないでしょうか。
しかし、ストレスチェック結果は本人の同意なしで会社に通知されることはありません。
結果が開示されるのは、あくまで同意書に同意した方のみなので、しっかり自身のストレス状況と向き合った上で同意するか否か判断しましょう。
結果の情報開示に同意しない従業員への対応は?
ストレスチェックの目的は、メンタルヘルスの一次予防であり、ストレスの原因が職場環境なのか、業務量なのか、はたまた人間関係なのか、会社としてもストレス要因を事前に軽減させる取組みを行うべきではありますが、「改善していきたいが、会社に結果を知られたくない」という人もいるでしょう。
最も注意しておかなければならないのが、このように会社に知られたくないと思っている人こそ高ストレス者やすでに何らかの疾患を患っている人が多くいるのが現状です。
高ストレス者で面談指導の勧奨が来ているのにも関わらず、会社に知られるのを恐れて面談指導を受診しないケースもあります。
会社側も本人のストレス状況を把握することが出来ず、そのままストレスが蓄積し続け、精神疾患やメンタル不調に陥る状況にも繋がりかねません。
そのような状況に陥らないためにも、日常生活での食事・睡眠・運動への配慮などセルフケアを心がけ、必要な際は病院や社外の相談窓口を活用するようにしましょう。
会社側も社員の日々の体調やストレスが溜まってきていないか、目を配ることが非常に重要です。
まとめ
ストレスチェック結果同意書は、労働者本人の同意をもって事業者へ情報が開示され、同意なくして結果を不当に扱われることは決してありません。
また、同意書にサインがない労働者に無理やりサインを強要することは禁止されています。職場環境改善のためには、ストレスチェック結果が有効的とされていますが、同意が得られない場合は自身でのセルフケアの心がけと会社側のストレス防止への取り組みが必要と言えます。
同意書の取り扱いに十分注意した上で、労働者と事業者側の両者とって有用な制度となるようにしましょう。
また、ドクタートラストでは、「会社に知られたくないが、悩みを相談したい」という方への外部相談窓口「アンリサービス」を実施しています。
会社への報告書の相談内容は匿名での対応も可能です。メンタルヘルス対策で重要なのは「早期発見・早期対応」。
ついついストレスを溜め込んでしまいがちな方、会社や家族になかなか相談できない方、心身ともに健康的な日々を送るためにもストレス軽減の一歩を踏み出しませんか。
<参考>
厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」