コロナ禍で心の健康状態が悪化していると感じる労働者が増えており、「メンタルヘルス」への影響が問題視されています。
メンタルヘルス不調を放置してしまうとうつ病や精神障害、最悪の場合は自殺者が出てしまうかもしれません。
このような状況に陥らないためには、ストレスチェックで心の健康状態を把握することが有効です。
しかし、ストレスチェック結果は非常に機微な情報なので取り扱いには十分注意しなければいけません。
今回は、ストレスチェックの目的と、結果を活用した高ストレス者への対応について解説します。
ストレスチェックは何のためにするもの?
ストレスチェックを実施する目的は、大きく分けて3つあります。
1、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための一次予防
2、自身のストレス状態への気づきを促す
3、ストレス原因が職場にある場合、職場環境を改善しストレスを軽減する
メンタルヘルス予備軍を早期発見して対応策を考えるのももちろん大切ですが、なによりストレスチェックによって自身のストレス状態を把握して、メンタルヘルス不調を未然予防することが重要です。
また、労働者自身がストレスを自覚していないまま症状が重篤化するケースもあります。
ストレスチェックではストレスの負荷がどこにかかっているか特定できるので、自身のストレス状況を見直す良いきっかけになるでしょう。
では、ストレスの原因が職場にある場合、どのように改善すればよいのでしょうか。
職場のストレス原因を取り除くには、ストレスチェックの集団分析結果を利用して「働き方や職場環境の改善」をしていく必要があります。
現状では、職場にストレス原因があるにもかかわらず、改善されていない企業が多く存在します。
職場環境や人間関係などの問題点を把握して、具体的な対応策を検討する上で、ストレスチェックデータは非常に重要だと言えるでしょう。
ストレスチェックの結果は誰が見る?
ストレスチェック結果を同僚や上司に見られるのではないかと、受検をためらっている人もいるのではないでしょうか。
一般的に、ストレスチェック結果の閲覧権限があるのは受検者本人と実施者のみであり、本人の同意があった場合のみ、事業者に結果を提供することができます。
人事権(人事について判断を行う権限)を持つ者は、ストレスチェックの結果によって受検者が不利益となる扱いを受けることのないように、ストレスチェック業務には従事できません。
また、個人情報の取り扱いについてもきちんと法律によって定められています。
労働安全衛生法の第104条には「(健康診断等に関する秘密の保持)ストレスチェックの事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。」と明記されており、安心して受検できる体制が築かれています。
ストレスチェック結果によって退職勧奨やクビはあり得る?
実際にストレスチェックの結果によって会社側から退職を促されたり、解雇されたりすることはあるのでしょうか。
労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度実施マニュアルでは、以下に示した労働者に対する不利益な取扱いを禁止しています。
(a)解雇すること
(b)期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと
(c)退職勧奨を行うこと
(d)不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役
職)の変更を命じること
(e)その他労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること
出所:厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
労働者がストレスチェック結果の提供に同意しないことや心身の状態を理由として、会社側から解雇や雇い止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換を強要してはいけません。
産業医面談の結果、転属や一時的な休職などのやむを得ない就業上の措置が行われる場合でも、必ず本人の同意を得てから決定すべきでしょう。
ストレスチェック結果を有効活用すれば、職場環境の改善に役立てることが可能です。
下記の図は、厚生労働省が「事業場が感じるストレスチェック制度の効果」を調査しグラフ化したものです。
この図によると、ストレスチェックを受検した半数以上が「自身のストレスへの関心が高まった」と感じています。
つまり、ストレスチェックは自身のストレス状態への気づきを促し、メンタルヘルスに理解がある風土を目指すきっかけ作りにも効果的と言えるでしょう。
また、会社としてメンタルヘルスへ意識付けをしていくには、集団分析結果を活用し、組織ごとに結果を展開していく施策が切り口になります。
組織ごとの結果を過去の数値と比較してみると現段階の課題を深掘りできるでしょう。
ストレスチェック後の面談で退職勧奨されたときの対処法
ストレスチェックの結果、高ストレスと診断された人は、産業医による面接指導を受けられます。
しかし、「高ストレス者であるのを理由に降格や転属などの不当な扱いを受けるのではないか」という懸念から、面談を避けてしまう人も多いのではないでしょうか。
そのような労働者が増えないためにも実施者は下記の点に配慮しましょう。
・面談を受けるメリット(自身のメンタル不調の原因を掴むきっかけになるなど)を伝える
・面談で得た情報の取り扱いを明確にする
・不利益を被ることは無いと丁寧に説明する
・本人が面接を受けやすい環境を整える(オンラインでの対応など)
こうした小さな心遣いが高ストレス者の不安を払拭し、面談申出へつながるかもしれません。
まとめ
労働者が日々いきいきと働きやすい職場環境を構築していくためには、自身のストレス状態を把握し、周りがメンタルヘルスについて理解し、組織として職場環境改善への取組みを行うことが重要であると言えます。
職場改善を行うなかで大切なのは、高ストレスへの面接指導を含めたメンタルヘルスケアです。
しかし、産業医による面接指導については任意のため、実際に面談を行う労働者の数は少ないのが実情です。
高ストレス者への十分な説明とケアをしっかり行うことで面談の実施率を上げていきましょう。
また、集団分析結果を効果的に活用することで見えてくる問題点に対して対策を実行して職場環境改善にもつなげましょう。
ドクタートラストストレスチェック研究所では、最新のストレスチェックデータを分析した結果から職場環境改善の施策や高ストレス者を生み出す原因、職場の信頼関係構築の要素、仕事の満足度の高め方などについて定期的にセミナーや報告会を行っています。
是非、働きやすい職場づくりの第一歩として活用してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」