あなたは職場でどのくらいストレスを感じていますか?
ストレスは心身の健康を大きく害すおそれがあり、会社の生産性にも大きな影響を与えます。
しかし、仕事をしているなかでストレスがたまるのは自然なことです。
大切なのは、たまったストレスを把握し、的確に対処・改善をおこなうことであり、こうしたストレスマネジメントの効果的な実施は、自身の健康を守り、会社の生産性を大きく向上させます。
本記事では、職場でのストレスマネジメントの実施方法とそこから得られる効果についても解説していきます。
ストレスマネジメントとは
私たちは日々仕事をするなかで人間関係や仕事の量・質など、さまざまな要因によるストレス負荷がかかっています。
過度なストレス負荷は、心身の健康状態に悪影響を与え、休職や離職につながります。
最悪の場合、自ら命を絶ってしまう可能性も考えられるでしょう。
ストレス負荷により離職率が高くなれば、会社には以下のような問題が起こります。
・ 会社への信用が低下し、新たに採用を行ううえで不利になる
・ 人材の採用や育成に掛かるコストが増加する
・ 従業員の入れ替えが激しいため長期的なスパンでの会社の成長が見込みにくい
・ 人員の入れ替えなどが多く、従業員の連携不足によるパフォーマンスの低下が起こる
このような状況に陥る前に、適切に「ストレスマネジメント」をおこない、ある程度のストレスがかかっても高いパフォーマンスが発揮できるような上手いつき合いかたをしていきましょう。
ストレスマネジメントの基本知識
ストレスマネジメントにおいて重要なポイントは、自分自身にあらわれるストレスサインに気づくことです。
「普段よりイライラしている」「疲れが溜まってきている」といった小さな変化はストレス蓄積のサインであり、放置すれば重大な疾患につながる可能性があります。
特に精神疾患は回復までに時間がかかり、再発の危険性も高いため、「自身の変化」の早期発見を心がけ、適切に対処する知識や方法を身につけることが重要です。
ストレッサー(ストレス要因)とは
ストレスを引き起こす要因となる事柄を「ストレッサー」とよびます。
ストレッサーには内因性と外因性のものがあり、その性質から大きく4種類に分類されます。
【内因性ストレッサー】
① 生物的ストレッサー:ほこり・花粉・細菌など
② 心理的・社会的ストレッサー:人間関係・家庭の問題・業務上の評価・転職・退職など
【外因性ストレッサー】
③ 物理的ストレッサー:職場環境・睡眠不足・喫煙・飲酒・混雑など
④ 科学的ストレッサー:天候・公害物質による刺激・酸素欠如など
特に心理的・社会的ストレッサーは多くの労働者が感じやすく身体の不調にもつながりやすいため、十分に注意が必要です。
ストレス反応とは
外部からの強い刺激や負荷によって起こる、心理面や身体面のさまざまな症状を「ストレス反応」と言います。
ストレス反応は、以下の図のように心理面、身体面、行動面の3つに分類できます。
ストレス反応 | 急性ストレス反応 | 慢性ストレス反応 | 重篤な反応 |
---|---|---|---|
心理 | 悲しみ、不安、怒り、緊張、関心の低下、落ち込みなど | 活気の低下、無気力、うつ気分など | 不安障害(パニック障害・社交恐怖)、感情障害(双極性障害・うつ病)、思考障害(総合失調症・妄想性障害) |
身体 | 身体の痛み、心拍数増加、血圧上昇、発汗、冷や汗、めまい、頭痛、立ちくらみなど | 動悸息切れ、食欲低下、肩こり、胃痛、目の疲れ、便秘や下痢、不眠など | 生活習慣病(糖尿病等)、月経前症候群、循環器障害(本態性高血圧、心筋梗塞、狭心症、不整脈)、筋骨格障害(筋緊張性頭痛・慢性疼痛) |
行動 |
飲酒や喫煙量の増加、集中力低下、意欲減退、ミス増加など | 心理・行動系(拒食や過食、アルコール依存、出社拒否、職場不適応、引きこもり、不安障害、うつ病、適応障害など) |
どんな症状がストレス反応なのかを理解することで、ストレスに対して素早いアプローチが可能になり、重篤化を防ぎます。
ストレスコーピングとは
ストレスコーピングとはストレスに対処するための行動や方法を指します。
ストレスを受けないようにするのも大切ですが、最も重要なのは、ストレスにどう対応するかです。対処法をみつけて実行できればストレス負荷の減少につながります。
メンタルヘルス不調の防止のために、日々のストレスサインに気づき、ストレスコーピングを適切におこないましょう。
ストレスマネジメントの具体的なやり方
では、実際にストレスへ対処していくためにはどんな方法があるのでしょうか。
個人でストレスコーピングを実行する
個人でできるストレスコーピングの種類と具体例を紹介します。
① 問題焦点コーピング
ストレッサーそのものに働きかけ、周囲の協力を得ながら自身で問題解決し、ストレスを和らげる方法
(具体例)ストレッサーが仕事の場合、業務量を減らしてもらう/上司に相談して業務内容の見直しを行う/部署異動/休職をして一時的に仕事を離れる
② 情動焦点コーピング
ストレッサーそのものではなく、ストレスに対する考え方や感じ方を変え、周囲の協力を得ながらストレスを軽減していく方法
(具体例)上司から業務上のミスをきつく叱られた場合、「なぜここまで言われなければならないのか」「自分は上司から嫌われている」などの先入観や否定的な考えを捨て、「上司が注意してくれたおかげでミスをカバーできた」「自分の成長のためを思って言ってくれた」とポジティブに捉えるようにしてストレス負荷を感じないようにメンタルバランスを整える
③ ストレス解消型コーピング
ストレスを感じた際に、何かリフレッシュできるようなことをしてストレスを身体の外へ追い出す方法
(具体例)運動をして汗をかく・綺麗な自然を見て心を浄化させる・好きな物を食べるなどしてストレスを解消する
セルフケアに関する社内研修
職場におけるストレス要因は、社員個人の努力だけで取り除くのは難しく、会社側もメンタルヘルス対策に力を入れていく必要があります。
まずは、第1段階として社員自らおこなうことができる「セルフケア」についての基礎知識研修・情報提供を労働者や管理監督者などに対して定期的に開催しましょう。
メンタルヘルスの正しい知識やストレスへの対処法の理解は、メンタルヘルス対策において非常に重要です。
管理職向けのラインケア研修
第2段階として、上司・課長・部長などの管理監督者対象に「ラインケア」についての研修を行います。
研修の内容としては以下の点を必ずおさえておきましょう。
・ 社員からの相談対応
・ 勤怠状況の管理
・ 職場環境の把握と改善
・ 職場復帰支援
メンタルヘルス対策では、上司が部下の業務状況や様子に気を配り、日頃からコミュニケーションをとっていくことが重要です。
社内・社外の相談窓口を設置
企業は相談窓口を設置し、社員が自身のメンタルヘルスについて気軽に相談できる体制を整える必要があります。
しかし、社内相談窓口を設置したからといって簡単に相談してくれるとは限りません。
「会社の人に相談内容を知られてしまうのではないか」「人事評価が下がるのではないか」などの理由から相談につながらないケースが多く、相談窓口が形骸化している企業が非常に多いのです。
社内の相談窓口設置の際には個人情報の保護を確実におこない、社内への周知を徹底、社員が安心して相談できる体制の整備が重要です。
また、近年では社内・社外両方に相談窓口を設置するケースも少なくありません。
社外の相談窓口を設置することで、社内で声を上げにくい問題も安心して相談してもらえます。
また、専門のカウンセラーが対応するため、的確なアドバイスが期待できるのも大きなメリットです。
相談することで直接的な問題解決には至るとは限りません。
しかし、相談することで「気持ちが楽になった」「少し前向きになれた」などの声も多く、仕事の円滑化や仕事へのモチベーション・職場の雰囲気向上につながり、心身の健康に良い影響をもたらすでしょう。
ストレスチェックの実施
ストレスマネジメントにおいてストレスチェックは非常に重要な役割を果たします。
ストレスチェックは高ストレス者を早期発見するための施策でもあるのですが、最も大きな目的は、社員にメンタルヘルスについて考えるきっかけを与え、企業全体のメンタルヘルス意識の向上をうながすことです。
また、ストレスチェック結果の集団分析では、部署毎の数値の差やストレス要因の違いを明らかにすることができるため、メンタルヘルス対策を考える際に大きな助けとなります。
現在は、労働安全衛生法第66条にて、従業員数が50人以上の会社ではストレスチェック実施が義務付けられています。
50人に満たない会社では努力義務にとどまっていますが、自分自身や会社のためにもストレスチェックを実施してみてはいかがでしょうか。
ストレスマネジメントによって得られる効果
ストレスマネジメントを上手くおこなうことができるようになると、個人や会社にとってさまざまな良い影響をもたらします。
ここでは、具体的にストレスマネジメントによって得られる効果を3つご紹介します。
職場の問題点や課題に気づける
ストレスマネジメントのひとつであるストレスチェックは、効果的に職場の問題点や課題を発見することができます。
例えば、集団分析で人事的な評価に不満を抱いている人が多い事実が明らかになれば、人事評価についての適切なフィードバックや1on1面談の時間を設けるなどの具体的な解決策の実施が可能です。
職場の具体的な問題点や課題への気づきは、明確な解決策を導き出し、職場環境を大きく改善します。
職場環境が改善する
ストレスマネジメントには、職場の人間関係を良好にして職場環境を改善する効果もあります。
強いストレス負荷がかかると、心に余裕がなくなり、視野が狭くなることでコミュニケーション不全に陥ります。
また、ストレス反応によって攻撃的になってしまう社員も多く、人間関係のトラブルが頻発し、企業全体の作業効率が大きく低下してしまうでしょう。
職場の人間関係において重要なのは良好なコミュニケーションです。
セルフケアの徹底はメンタルを良好に保ち、周囲の人間への配慮と気遣いを生み、人間関係のトラブルを防止します。
業務の生産性が向上する
ストレス負荷がかかると人間は自然と気分が落ち込み、仕事へのやる気低下につながります。
下記の2つの図は、就業者数と1人当たりの平均年間労働時間の推移と、労働生産性の推移を示しています。
この図では一人当たりの平均年間労働時間は減り続けていますが、反比例して労働生産性の水準は上昇傾向にあります。
つまり、一人当たりの労働時間が減少し、ストレス負担が軽減されることが、高い生産性につながっている可能性が読みとれます。
生産性の高さは企業の成長に直結するため、企業と個人の双方がストレスを適切に管理・対処していくことが求められます。
労働者のメンタルヘルスが良好になる
ストレスが蓄積するとメンタルヘルス不調を招きます。
しかも、ストレスは自身で把握するのが難しいため、気がついたらメンタルヘルス不調に陥っており、症状が進行しているケースも珍しくありません。
ストレスケアによって自分のストレスを自覚することができるようになり、自分なりのストレスへの対処法がわかれば、メンタルヘルス不調に陥る前に対応できるので、メンタルヘルスを良好に保てるようになるでしょう。
ハラスメントの防止につながる
ストレスケアを実施すると、労働者や管理監督者のストレスへの理解が進み、代表的なストレス要因であるハラスメントの防止にもつながります。
ハラスメント被害の多くは、加害者がハラスメントを行っていることを自覚していません。
そのため、ハラスメントの防止には「どんな行為がハラスメントに該当するのか」「どんな行為が相手にストレスを与えるのか」を加害者が理解することが重要です。
ストレスケアによってどんな行為が相手にストレスを与えるかを理解することで、自分のハラスメント行為の自覚が可能になり、ハラスメント防止につながります。
休職・離職を防ぐ
ストレスケアはストレスによる精神障害を防止できるので、休職や離職する労働者を減らすことができます。
メンタルヘルス不調まではいかなくても、ストレスを感じながら仕事をしていると、仕事に対して「楽しくない」「つらい」「緊張する」といったマイナスな感情を抱いてしまうでしょう。
こうした状態が継続すれば、離職は避けられません。
ストレスケアによって、仕事に対して前向きに取り組める状態を作っていくことが重要です。
また、休職や離職する労働者を減らすことは、新たに採用・教育するコストの削減につながるため、実際にかかるコストの面でもストレスケアにはメリットがあります。
まとめ
ストレスをコントロールするには、個人のストレスマネジメント能力を磨くことも重要ですが、個人で対処できる範囲には限界があります。
企業側も、サポート体制の整備や、外部機関の相談窓口の整備をおこない、手厚い支援を受けられる体制を整えることが重要です。
まずは、できることから段階を踏んで実践していきましょう。
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パワハラ防止法が施行された今、もう一度社内のストレスマネジメントを見直してみませんか?
<参考>
・ 厚生労働省 こころの耳「ストレスとは」
・ 厚生労働省 e-ヘルスネット「ストレスマネジメントとは何か」
・ 厚生労働省 こころの耳「ストレスからくる病」
・ 厚生労働省「職場における心の健康づくり」
・ 経済産業省「サービス生産性レポート」