
業種別の高ストレス者率の比較と考察
最終更新日 2023-01-12
業種別の高ストレス者率の比較
ストレスチェック研究所では2019年度ストレスチェック有効受検者199,290人、575組織のデータをもとに、高ストレス者率を業種ごとに算出しました。
※ 業種は日本標準産業分類にもとづき分類しています。
(図1)2019年度 業種別高ストレス者率
最も高ストレス者率の高い組織は「生活関連サービス業・娯楽業」となりました。
次いで「電気・ガス・熱供給・水道業」「製造業」「運輸業・郵便業」「医療・福祉」「宿泊業・飲食サービス業」「教育・学習支援業」の順に、全国平均値である15.4%よりも高い結果となっています。
ただ、「生活関連サービス業・娯楽業」および「電気・ガス・熱供給・水道業」は受検組織が少なく、一部の組織が大幅に高ストレス者率を引き上げている可能性が高いと考えられます。
また前年である2018年度に受検した507組織の業種別高ストレス者率を図2に示しました。
「製造業」は2018年度に最も高ストレス者率が高い業種であり、2019年度も引き続き高い状況であることがわかります。
(図2)2018年度 業種別高ストレス者率
業種によって高ストレス率に差が生じる理由
ではなぜこれらの業種の高ストレス者率が高いのか、考察をしていきましょう。
まず、受検者が高ストレス者か否かを判定する尺度として、図3の「身体反応(ストレス反応)」が大きく関係しています。
(図3)ストレスチェック質問項目一覧より身体反応に関する質問を抜粋
ストレス反応の尺度に不良な回答をした方は、高ストレス者と判定されやすいということです。
ではそのストレス反応と相関の高い尺度、つまりストレス反応に影響を与える他の尺度は何でしょうか。
下記の研究レポートにて発表しています。
ストレス反応と相関の高い尺度は、相関が高い順に以下の通りです。
「仕事の満足度」
「ワーク・セルフ・バランス(ポジティブ)」
「仕事の適性」
「職場の対人関係」
「情緒的負担」
「仕事のコントロール」
このうち「仕事の満足度」「ワーク・セルフ・バランス(ポジティブ)」「仕事の適性」は業種による差が生じづらい尺度ですが、「職場の対人関係」「情緒的負担」「仕事のコントロール」は業種により差が生じる可能性があるといえます。
たとえば、日常的に顧客対応、ときにはクレーム対応などの接客をおこなう従業員の多い業種は感情面での負担が大きいため「情緒的負担」が不良になりやすく、顧客のペースで仕事をするため自分のペースで仕事をすることができず「仕事のコントロール」が不良になりやすいと考えられますね。
そのほか、顧客依頼ベースで短い納期の仕事を繰り返す業務も自分でペース配分や仕事の進め方を決めることができず「仕事のコントロール」が不良になりがちです。
この特徴に該当しやすい業種として「生活関連サービス業・娯楽業」「電気・ガス・熱供給・水道業」「製造業」「運輸業・郵便業」「医療・福祉」「宿泊業・飲食サービス業」「教育・学習支援業」など高ストレス者率の高い業種が挙げられます。
また、外回りの業務が多いなど、職場(オフィス)にいる時間の短い従業員が多い業種や、工場のライン作業など会話の機会が少なく単独で黙々と業務をこなすことの多い業種では、従業員同士でのコミュニケーションをとることが難しく、友好的な雰囲気づくりがしづらいため「職場の対人関係」が不良になりやすいといえるでしょう。
この特徴に該当しやすい業種として「電気・ガス・熱供給・水道業」「製造業」「運輸業・郵便業」などが挙げられます。
このように、ストレス反応と相関の高い尺度に照らし合わせて考えると、業種によって高ストレス者率に差が生じる理由も理解できますね。
同じ業種でも組織によって高ストレス者率は異なる
ただし、同じ業種でも組織によって大幅に高ストレス者率が異なることがあります。
例として、高ストレス者率が高い傾向にある「製造業」の中にも、高ストレス者率が5%未満と非常に低い組織は存在していますし、逆に30%以上と非常に高い組織も存在します。
ご紹介した業種別高ストレス者率の結果をもとに「高ストレス者率の多い業種だからしかたない」と考えるのではなく「高ストレス者率の高い業種だからより一層気を付けよう」と考えていただければと思います。
重要なことは、自分の組織が所属する業種の特徴と、高ストレス者が増えやすい要因を把握し、適切に対処することです。
たとえば接客を要する業務である場合、感情面での負担を完全になくすことや、自分のペースで仕事を進めることは難しいでしょう。
しかし、その中でも特に感情面で負担となっている業務(理不尽なクレーム対応や困難ケース)は、単独ではなく誰かとペアを組んで対応する、上司が一緒に対応するなどの工夫により、負担が軽減すると考えられます。
それも難しい場合は、定期的に従業員同士で感情面での負担を吐き出して承認し合う機会を設けると、ストレスを和らげるだけでなく「同じ気持ちで頑張っている仲間がいる」という心強さから負担が軽減される可能性がありますね。
「仕事のコントロール」に関しても、自分のペースで仕事が進められなくても、職場の仕事の方針に自分の意見を反映させることならできるかもしれません。
手順の決まった仕事だとしても、以下のように些細なことでも職場に自分の意見やアイデアを反映させることができれば、仕事のコントロール不足によるストレスが軽減される可能性があります。
「コミュニケーションを増やすために声かけ運動をしてみてはどうか」
「職場に観葉植物を設置するのはどうか」
「日によってチーム内の誰かをノー残業デーとして、その人が早く帰れるようにみんなで調整をしてはどうか」
これらの取り組みはあくまで例ですが、どんな業種、業務でも、ストレス軽減のために工夫できる余地はあると考えられます。
まずは組織の実態をきちんと把握し、実行しやすく、効果が高いと思われる取り組みから始めてみることをおすすめいたします。
執筆者
- 株式会社ドクタートラスト ストレスチェック研究所 アナリスト