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「運輸業」「郵便業」は健康リスクが高いだけにとどまらない?ストレスチェックからわかる「働き方」の懸念点

最終更新日 2023-01-10

はじめに

2021年7月、ストレスチェック研究所では、2020年度のストレスチェックデータをもとに業種別に健康リスクを算出し、総合的な健康リスクが最も高い業種は「運輸業、郵便業」であるとわかりました。

共同通信PRWire「健康リスクの高い業種は「運輸業、郵便業」、「医療、福祉」 ~ストレスチェック全業種データ分析レポート~」

本記事では42尺度すべての結果を「運輸業、郵便業」と全国平均値で比較し、働き方やストレス要因にみられる特徴をわかりやすく解説します。

◆ 調査結果のポイント ◆
① 仕事の負担は大きくないものの、身体的な負担が大きく仕事の裁量権も少ない
② コミュニケーションが不足していて職場での対人関係が良くない可能性がある
③ 業務中に「自身が何をすれば」よいか職務や責任の所在が明確
④ 仕事に対しての報酬が少ない、または報酬についての説明が十分でない
⑤ 上司と部下の間で溝が生まれている可能性がある

仕事の裁量権が少なく、身体的な負担も大きい

ストレスチェックは主として設問数が57項目版、80項目版を使います。
このうち57項目版では心身のストレス反応をメインとする20尺度の状況を、80項目版では、満足度やワーク・エンゲイジメント(やる気)など22尺度が追加された計42尺度の状況を算出します。

図1は、ストレスチェック57項目版で算出する20尺度の「運輸、郵便業」の平均値です。
数値は大きいほど不良(好ましくない)の傾向を示しています。

<図1>
graph

図1のとおり、全国平均と「運輸、郵便業」で相違がみられる尺度がいくつかあります。
「仕事の量」や「質的負担」は全国平均とくらべて良好であるものの、「身体的負担度」は不良となっており、ほかの業種にくらべて身体の疲れが出やすいことが考えられます。
また「仕事のコントロール度」も不良でありことから、自身で裁量をもって働くことが難しい業種であると推察できます。

これは、「運輸、郵便業」の業務特性にも関連づけられると考えられます。
決まったものを決まった場所に時間厳守で届ける業務内容であるため、自身で仕事ペースを作ることが難しく「仕事のコントロール度」が不良になるのでしょう。

コミュニケーションが不足している

また、コミュニケーション面においては「運輸、郵便業」は、「職場の対人関係」「上司からのサポート」「同僚のサポート」が全国平均とくらべて不良であり、コミュニケーション不足がうかがえます。
この点も「運輸、郵便業」の業務特性に関連づけて考えてみましょう。
トラックやオートバイなどのドライバーが業務上、十分にコミュニケーションすることは難しそうです。
もしもコミュニケーション不足により不安やストレスを抱え込んでしまうことが考えられる場合には、会社側から従業員に話を聞く機会を提供することも必要です。

役割が明確で職務や責任の所在がはっきりしている

続いてストレスチェック80項目版で追加算出する22尺度をみていきます。

<図2>
graph2

図2のとおり、ストレスチェック80項目版で追加算出する22尺度はワーク・エンゲイジメントをはじめ、働き方に関わるものが多く、57項目版で算出する20尺度とは設問の質が大きく異なっています。

たとえば「情緒的負担」「役割葛藤」「役割明確さ」において「運輸、郵便業」の結果は全国平均よりも良好または同等であり、業務中の職務や責任の所在、すなわち「自身は何をすればよいか」が明確であるとわかります。
業務内容や役割がはっきりとしていることで、悩んだり業務の手戻りが発生したりすることが少なく負担が抑えられます。

仕事に対しての報酬が少ない、または報酬についての説明が十分でない

一方、「運輸、郵便業」は「経済・地位報酬」「尊重報酬」「公正な人事評価」が全国平均とくらべて不良です。
単純に評価が低い、報酬が少ないと感じている人が少なくないことも考えられますが、「報酬や評価の説明」が十分でないケースも考えられます。

上司と部下の間に溝が生まれている可能性

また、「運輸、郵便業」の「上司のリーダーシップ」「上司の公正な態度」も全国平均値とくらべて不良です。
前述のとおり、「上司からのサポート」をはじめ、コミュニケーションが不良になっていたことから、上司関連の項目が不良であっても整合性は取れます。
なお、「上司の公正な態度」は設問「上司が誠実に対応してくれるか」から算出されるものであるため、単なるコミュニケーション不足のみでなく、上司と部下の間で溝が生まれている可能性があります。

おわりに

今回は、2020年度のストレスチェックデータにおいて、最も健康リスクの高かった「運輸、郵便業」について、健康リスク以外の懸念点をわかりやすく解説しました。
このなかで、上司や同僚とのコミュニケーション不足が明るみになりましたが、業務の特性上、改善が難しいのも否めません。

しかし、雑談を含めた積極的なコミュニケーションは信頼関係構築のきっかけになり、職場の雰囲気を改善にも役立ちます。
普段、職場内のコミュニケーションが少ないと感じているのであれば、会社として「コミュニケ-ションの場」を提供することも職場環境改善になります。

また、「運輸、郵便業」では、仕事の裁量面で従業員が負担を感じていることがわかっています。
決められた時間に配達を終えないとクレームなどにつながってしまう可能性も考えられます。
宅配便や郵便配達を利用する利用者側がドライバーや配達員の方に気遣いできれば、「運輸、郵便業」の働きやすい職場、雰囲気醸成に貢献できそうですね。

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【調査概要】
調査期間:2020年4月1日~2021年3月31日
調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2020年度契約企業・団体の一部
企業・団体数:685
有効受検者数:240,275人

※ 本件の業種分類は「日本標準産業分類」に準拠しています。

■ 57項目版尺度
仕事の量的負担、仕事の質的負担、身体的負担度、仕事のコントロール度、技能の活用度、職場の対人関係、職場環境、仕事の適性度、働きがい、活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴、上司からのサポート、同僚からのサポート、家族や友人からのサポート、仕事の満足度、家庭の満足度
■ 80項目版尺度
仕事の量的負担、仕事の質的負担、身体的負担度、仕事のコントロール度、技能の活用度、職場の対人関係、職場環境、仕事の適性度、働きがい、活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴、上司からのサポート、同僚からのサポート、家族や友人からのサポート、仕事の満足度、家庭の満足度、情緒的負担、役割葛藤、役割明確さ、成長の機会、経済・地位報酬、尊重報酬、安定報酬、上司のリーダーシップ、上司の公正な態度、ほめてもらえる職場、失敗を認める職場、経営層との信頼関係、変化への対応、個人の尊重性、公正な人事評価、多様な労働者への対応、キャリア形成、ワーク・セルフ・バランス (ネガティブ)、ワーク・セルフ・バランス (ポジティブ)、職場のハラスメント、職場の一体感(ソーシャル・キャピタル)、ワーク・エンゲイジメント

DL

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