
ジョブ・クラフティングとは?
最終更新日 2023-01-10
2022/12/13更新
コロナ禍の今は、将来を予測するのが困難な状況を意味する「VUCAの時代」と呼ばれ、常に状況に合わせた判断を求められることから、ジョブ・クラフティングによる自律型人材の育成が大きく叫ばれています。
しかし、会社の未来を担う若手層は、仕事に対する「やらされ感」から脱却できず、企業の人事担当者より「どうしたら仕事にやりがいを感じてもらえるだろう」とご相談を受ける機会がいまだ多くあります。
今回はその秘策ともなるジョブ・クラフティングの考え方に触れていきます。
ジョブ・クラフティングとは
ジョブ・クラフティングとは、従業員が仕事に対する認知を変化させることで、やりがいや満足度を高めるべく、働き方を工夫するものです。
「仕事(ジョブ)を手作りする(クラフティング)」という名のとおり、今まで「やらされ仕事」として捉えていた認知を変化させ、「やりがい」へと変えていくことで、会社へのワーク・エンゲイジメントや仕事への満足度などを向上させていきます。
ジョブ・クラフティングは、2001年、米イェール大学経営大学院のエイミー・レズネスキー教授とミシガン大学のジェーン・E・ダットン名誉教授によって提唱されました。
その後2016年頃に日本でも取り上げられるようになり、仕事に対するストレスの軽減やワーク・エンゲイジメントの向上のための施策として今では研修プログラムにも広く導入されています。
ジョブデザインとの違い
ジョブ・クラフティングとジョブデザインとの違いは、従業員が受動的か能動的かどうかです。
ジョブデザインでは、事業者が従業員に対して、主体的に取り組めるように業務を設計して、その人にあった仕事を割り振っていきます。
一方でジョブ・クラフティングとは、従業員が能動的に「自分がどうやったら主体的に働けるか」を考えて、認知を変化させることでやりがいを獲得していく行為です。
どちらもワーク・エンゲイジメントや仕事の満足度の向上に効果的であり、ジョブ・クラフティングとジョブデザインの両方からアプローチしていくことで、より高い効果が期待できるでしょう。
ジョブ・クラフティングが注目される背景とは
ジョブ・クラフティングが近年特に注目されている背景に「自律型人材の育成」があります。
自律型人材とは自らで思考し、価値観や意思に基づいて自ら判断し、行動することのできる人材を指します。
業務・顧客のニーズ・働き方などの多様化している現在、ただ指示を受けて動くだけでなく、状況に合わせて柔軟に対応できる人材の有無が企業の継続にも大きくかかわります。
またコロナ流行など、現在は先の予測がつかない「VUCAの時代」と呼ばれ、より現場や個人での判断を求められる機会が増えていることも大きな理由の一つと言えます。
ジョブ・クラフティングで見直す、仕事の3つの視点
ジョブ・クラフティングでは、仕事を新たに3つの視点から捉え直し、それぞれに合わせた工夫を図ることで、認知を大きく変えていきます。
3つの視点とは「作業クラフティング(内容や方法)」「人間関係クラフティング(対人関係)」「認知クラフティング」です。
作業クラフティング
「作業クラフティング」とは、業務の内容や方法を工夫していくことです。
自分の業務に改めて目を向け、実際に行っている業務の作業効率はどうか、自身の知識量やそれに対する勉強の機会の有無、備品や設備といった内容、自分のタスク管理方法に至るまで、さまざまな項目が含まれます。
たとえば、業務効率化を図るための手順見直しや依頼書フォーマット作成などの工夫を図ることで、自分の作業がよりしやすくなることを目指します。
人間関係クラフティング
「人間関係クラフティング」とは、上司や同僚、取引先など、仕事で関わる人との関係性改善を指します。
どのような関りかたをすればより働きやすくなるのか、連絡頻度、相談のしやすさ、距離感などについて改めて考えます。
上司や同僚との、より親密な関係性が仕事のしやすさに影響するのであれば、声をかけてもらうのを待つのではなく自ら相談に行くような姿勢を持ったり、取引先にもなるべく足を運んだりする工夫が必要です。
認知クラフティング
「認知クラフティング」とは、仕事に対する考えかたや捉えかたを変えていくことです。
たとえば、「仕事の社会的意義」「普段何を思いながら仕事をしているのか」「仕事の目的や意味」などについて改めて考え、仕事と向き合います。
仕事の捉え方は、ワーク・エンゲイジメントやモチベーションにも大きく関わる部分です。
「自分が日々業務を行うにあたりどう感じているのか」を客観的に捉え直すことで、「やらされ仕事」や「ただの作業」といった受け身の姿勢ではなく、やりがいを持って主体的に仕事に取り組めるようになります。
ジョブ・クラフティングの効果とメリット
ジョブ・クラフティングの特徴として、従業員個人に対するアプロ―チである点があげられます。
仕事の捉え方やモチベーションは当然一人ひとり違うため、従業員個人の捉えかたを変化させるジョブ・クラフティングは非常に効果的です。
ジョブ・クラフティングは一人ひとりが自分に合った方法を編み出し、それぞれが主体的により業務に向き合える方法を研修する手法であり、全員が自分に一番合った方法で改善を目指すため、ある種全員に最も合った形での改革が行われます。
また、ジョブ・クラフティングは研修プログラムの実践マニュアルも提供されており、比較的導入しやすいというのも利点の一つかもしれません。
慶應義塾大学総合政策学部 島津明人研究室「ジョブ・クラフティング介入プログラム実施マニュアル」
そのほかのジョブ・クラフティングのメリットについても解説します。
ストレスを軽減する
これまでの研究から、ジョブ・クラフティングを行った人はストレスが軽減するという結果が出ています。
ストレスの大きな原因のひとつは仕事の量の多さや進めかたへの不満です。
ジョブ・クラフティングを行うことで従業員は、自身のタスクの量や内容、進めかたを自分で考えて工夫していくため、仕事に対する納得感が生まれストレスも生まれにくくなります。
また、ジョブ・クラフティングを実施している従業員は主体的にコミュニケーションできるようになり、人間関係によるストレスを感じる機会が減っていくでしょう。
仕事への積極性が生まれる
ジョブ・クラフティングによって仕事へのやりがいを感じることができた従業員には、仕事への積極性が生まれていきます。
ジョブ・クラフティングで「なぜこの仕事をするのか」「どんな意味があるのか」が理解できれば、仕事に対する高いモチベーションを維持することが可能です。
高いモチベーションを持っている従業員は自ら進んで仕事に取り組み、作業方法も自分なりに改善していくため、業務の効率化が期待できるでしょう。
幸福感が生まれる
ジョブ・クラフティングによって「働く社会的な意義」が理解できれば、従業員には働くことで幸福感が生まれます。
お金のためだけに働くのではなく、「働くことで社会の役にたっている」「社会に貢献できている」という感覚を持つことで、充実した状態で仕事ができます。
こうした充実感や満足感は、従業員の幸福感につながり、より高いモチベーションを持って業務へ臨んでくれるでしょう。
ジョブ・クラフティングで従業員がいきいきと輝く
今回は、ジョブ・クラフティングの基本的な考え方について触れました。
次回はジョブ・クラフティングの導入方法についても合わせて考えていきます。
私たちドクタートラストのストレスチェック研究所では、ストレスチェックの結果をもとにいきいきと働いている人材を中心とした研修プログラム、人材育成・組織開発コンサルティングサービス「STELLA」を提供しています。
ジョブ・クラフティングやアサーションをはじめとしたさまざまな研修を行うことで、組織にポピュレーションアプローチを行い、従業員が周囲に良い影響を与え、自らもいきいきと働くことができるSTELLA人材へと生まれ変わらせていきます。
人材育成・組織開発コンサルティングサービス「STELLA」にご興味をお持ちの方はお気軽にお問い合わせくださいませ。
<参考>
慶應義塾大学総合政策学部 島津明人研究室「ジョブ・クラフティング介入プログラム実施マニュアル」
執筆者

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【保有資格】産業カウンセラー/上級ハラスメントマネージャー
【コメント】典型的なブラック企業で数年働いた経験から「働きがい」や「仕事の楽しさ」は作ることができても、職場環境は一人の力ではつくることはできないと知り、楽しく働き続けられる職場環境に興味を持ちました。現在は産業カウンセラーとしての知識も活かし、多くの企業に携わりながら、皆が楽しく働ける職場づくりを目指しています。