
マネジメントの視点からストレスチェックのデータをみてみよう③評価による信頼関係
人事評価に関する課題感を持っている企業は多く、ストレスチェックのフィードバック面談中にもご質問いただくほか、いままさに人事で施策を講じている最中だという話もよく伺います。
実際、ストレスチェックの結果に関わらず「従業員をどう評価するか」という問題は、ほぼすべての企業が常に抱え続けていると思われます。
しかし、ストレスチェック結果を紐解いてみると「本当に人事評価が課題なのか」と疑問に思うケースも存在しています。
今回は、シリーズ「マネジメントの視点からストレスチェックのデータをみてみよう」の第3回、評価にともなう信頼関係の構築についてです。
評価に関わるストレスチェックの設問
ストレスチェックの設問のなかには評価に関わる設問が多数存在しています。
たとえば、以下のような設問です。
・ 私は上司からふさわしい評価を受けている(尊重報酬)
・ 人事評価の結果について十分な説明がなされている(公正な人事評価)
・ 努力して仕事をすれば褒めてもらえる(褒めてもらえる職場)
・ 自分の仕事に見合った給与やボーナスをもらっている(経済・地位報酬)
ほかにも「仕事を失う恐れがある(安定報酬)」なども一部影響がありますが、この項目は本人に対する評価だけでなく、会社の業績などにもかかわるため、今回は省きます。
まずこれらの設問について、自社の結果と全国平均との間に、どの程度の差があるのかを確認しましょう。
2021年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した32万人のデータをもとに算出した回答の内訳は以下のとおりでした。
上司からふさわしい評価を受けていないと感じているのは全体の28.8%でした。
また、努力しても褒めてもらえないと感じている人が32.4%、自分の仕事に見合った給与やボーナスをもらっているかについては41.5%がちがう・ややちがうと感じていました。
さらに、人事評価の結果については半数である50.2%が十分な説明がなされていないと感じています。
これらの結果と自社の結果を比較して、著しく数値が低い、または回答分布が不良な場合は、なぜそうなっているのかの原因究明が必要です。
人事評価がそもそも確立していない場合は、評価制度についてしっかりと共有し、「適性に評価されている」という実感の浸透を目指す必要があるでしょう。
「説明がなされていない」とはどういうことか
ここで最も注目すべきは「人事評価の結果について十分な説明がなされている」という設問について不良回答をしている50.2%の存在です。
この設問のストレスチェック上の尺度は「公正な人事評価」という表現になっています。
つまり、人事評価について全体の約半数が「公正ではない」と感じているということになります。
実際に人事評価が公正に行われていない場合は論外ですが、そうでないのに半数がそう感じているとすると、問題は「十分な説明」にあるのではないかと考えられます。
どう評価されているのかがわからない不透明さは、評価内容のプラス・マイナスにかかわらず従業員に不信感を与えます。
「できていないはずなのに過剰な評価を受けている」「あんなに頑張ったのに評価がなされていない」などがあるとエンゲイジメントやモチベーションにも関わります。
また、自分が成し遂げたことをしっかり評価されることやその評価をしっかりと受け止めることはその人の成長にもつながります。
だからこそ「十分な説明」が必要なのです。
たとえば、上司からはふさわしい評価を受けていると感じているにもかかわらず、人事評価自体には納得がいっていない場合、その不透明さは経営層との信頼関係にも影響します。
だからこそ、評価においては何よりも十分な説明をする必要があるのです。
若手に限らない「承認」の影響
この「評価」は前回述べた従業員の成長実感にも大きく影響します。
前回の記事はこちら
若手層は成長実感を求め、その実感が仕事の満足度につながります。
しかしその成長実感は成長したと周囲から認められる、いわば他者による「承認」もとても大切なのです。
そもそも仕事における承認欲求とは大きく2つ存在しています。
他者承認:他者に認められたい欲求。上司や同僚から評価や感謝を受けて満たされる。自己承認の土台となるもの
自己承認:自分を認めたいという欲求。スキルの獲得や経験、自己肯定感が影響する
周囲から認められたいと努力するのは素晴らしいことです。
しかし、努力して仕事をしても褒めてもらえなかったり、適切に評価されなかったりすれば、この他者承認は満たされません。
他社承認は、「周りから認められているから、自分を認めることもできるようになる」というように自己承認の土台になります。
また、SNSなどの影響で若手ほど「他者承認」を求めやすいため、より上司や同僚からの評価を適切に行う必要があるのです。
「成長を認める」「成果を認める」などの小さな積み重ねを行っていくことで、「この会社で続けていこう」「もっと成長していきたい」といったモチベーションが上がっていきます。
ストレスチェックから見える人事評価の一面
もし公正な人事評価の項目において、結果に課題感が見える場合、疑うべきは人事評価の仕方だけではありません。
その評価をどのように伝えているのか、またどんな意図をもって伝えているのかも重要です。
本来、人事評価は上司が人材を育成しやすくするために存在しており、どんな人材を組織として求めているのかを指し示すために人事評価は定められているはずです。
だからこそ、「いまはどんな評価がなされているのか」「今後どんな評価をするつもりなのか」と目標と現在地をすり合わせていくコミュニケーションが大切です。
「結果が悪い!これは人事評価制度が悪いせいだ!」と決めつけてしまう前に、周囲の人事評価への理解と周知について見直してみてはいかがでしょうか。
人事評価についてどんなことを伝えればいいのか迷ってしまったのであれば、我々コンサルタントにもぜひご相談ください。
ストレスチェックの結果を活かして職場環境改善に取り組んでいただければと思います。
ドクタートラストのストレスチェックでは部署別での分析も詳細に行うことができます。
ストレスチェックを活用しての職場環境改善に取り組むのであれば、いつでもお声掛けください。
執筆者

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【保有資格】産業カウンセラー/上級ハラスメントマネージャー
【コメント】典型的なブラック企業で数年働いた経験から「働きがい」や「仕事の楽しさ」は作ることができても、職場環境は一人の力ではつくることはできないと知り、楽しく働き続けられる職場環境に興味を持ちました。現在は産業カウンセラーとしての知識も活かし、多くの企業に携わりながら、皆が楽しく働ける職場づくりを目指しています。