
職場のメンタル不調者予防のために担当者がもっておきたい視点
最終更新日 2023-01-10
2022年6月に厚生労働省が、「令和3年度過労死等の労災補償状況」を公表しました。
発表によると、2021年度に仕事や職場環境が原因で、うつ病などの精神障害を患ったとする労災申請は過去最多を記録しており、前年比では295件増の2,346件でした。
実際に業務上の労災と認定され、支給が決定した件数も21件増加の629件で、こちらも過去最多となっています。
精神障害に関する労災認定の根拠となった具体的な出来事としては、以下の3つが上位となりました。
・上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた(125件)
・仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(71件)
・悲惨な事故や災害の体験、目撃をした(66件)
このように精神障害の労災が増加しているなか、やはり企業担当者としては、従業員へのメンタル不調者予防は急務であり必須であると言えます。
仕事でストレスを感じる主な原因
ストレスを引き起こす可能性がある出来事は大きく3つに分けられます。
トラウマティック(劇的な大事件) | 天災、ウイルス、テロなど |
ライフイベント(大きな変化) | 転職、定年、昇格、引っ越し、離婚、家族の死など |
デイリーハッスルズ(日常生活のなかで繰り返し経験する出来事・煩わしさ) | 仕事の負担、人間関係、満員電車など |
精神障害発症の誘因となった出来事の第1位であるパワハラについても、日常的に繰り返し行われる精神的攻撃である点が見逃せません。
デイリーハッスルズは職場のあらゆる場面に存在します。
メンタル不調に関して覚えておきたいのは、1つの出来事から受けるインパクトの大きさだけではなく、たとえ小さなことでも、その「出来事の継続性」と「ストレス要因の重複」がストレスの発生につながっている点です。
実際に私たちが受けるストレスのなかで、デイリーハッスルがより深刻だという報告もあります。
一つひとつのストレスは小さく、自身で気づいていなくても、それらを繰り返し、継続的に受けることで、ストレスが重なり大きな不調に繋がっていくのです。
会社で行うべきメンタル不調者予防
基本的に、職場においては複数のストレス要因が存在します。
ストレスチェックにも仕事のストレス要因をはかる尺度が複数設定されており、そこから職場やチームの特徴を捉えることができます。
ここで大切なのは、ストレスを増大させる要因を知るだけでなく、業務や職場の特徴から、どうしても取り除けないストレス要因を把握、現実的な取り組みへつなげていくことです。
メンタル不調者予防としては、ストレスを増大させる要因を適正化していくと同時に、ストレスを緩衝させる要因の強化も大切です。
対策を講じるにあたり持っておきたい視点を「業務量・業務時間の適正化」「定期的面談」を例に取り上げていきます。
業務量・業務時間の適正化
「働き方改革」への取り組みもあり、「業務量・業務時間の適正化」は多くの企業が行うようになりました。
ただ業務時間の適正化というと、どうしても残業管理になりがちです。
残業管理も非常に重要ですが、メンタル不調者を予防するための労務管理としては、「回復時間」と「心理的業務負担」という観点での「労務時間管理」の取り組みをお勧めします。
メンタル不調者予防では、疲労対策として「疲れないように働く」のではなく、「働いた疲れやストレスを翌日に持ち越さない」ことが大切です。
そのためには、1日のなかで交感神経と副交感神経のバランスをとることが重要になってきます。
通勤や上司とのやり取り、プレゼン、残業などの業務中はどうしても交感神経優位となるため、以下の視点を盛り込むのがポイントです。
・業務中に副交感神経を優位にする時間や環境があるか(休憩やリラックス、雑談など)
・退社後に副交感神経優位な状態となっているか(持ち帰り仕事や業務時間外の連絡がない状態など)
また、最近は「つながらない権利」というものも認知されてきました。
仕事をしていれば業務や人間関係でのストレスはつきまといます。
こうした問題の根本的な解決を目指しながらも、ストレスから「心身ともに離れる=回復期間」をいかに日々のなかで確保できているかが重要です。
もうひとつ労務時間管理として重要なのは、「(業務時間が)どのくらい長いか」だけでなく、「どのように長いか」という視点です。
仕事の時間を負担に感じたり、長く感じたりするのは、単純な時間的長さだけではなく、心理的業務負担が存在する場合が多いのです。
認識のズレや情報不足、曖昧さの把握。また、部内で業務量格差による不公平感が存在しないかについて、ストレスチェックの結果をもとに明らかにしていきましょう。
定例面談
現実的なメンタル不調者予防として有効なのが「定例面談」です。
トラウマティックな出来事があった時はもちろん、ライフイベントがあった社員を選定して、会社として定例面談の実施をお勧めします。
本人の申し出とは別にタイミングをみて面談を実施しましょう。
具体的には、新入社員面談や中途入社面談。また、異動後1か月や3か月後の面談、昇進後面談などです。
こうしたライフイベント時は変化が大きく、ストレスが重複しやすいため、予防的な意味での面談が必要です。
このように面談を実施していけば、メンタル不調の未然防止と早期発見が可能になるだけではなく、「相談できる風土」が醸成されていきます。
相談できる風土を醸成していくと、社員が自発的な相談をしやすくなります。
定期的面談として、高ストレス者の多い部署に対して全員面談を実施するなどの取り組みもあります。
高ストレス者の存在を個人の問題として捉えるのではなく、その環境に対して原因を求めていく姿勢が、職場環境改善やメンタル不調者予防の担当者にとって大切です。
さいごに
ストレスチェックを含めた各種サーベイが企業で当たり前に実施されるようになってきました。
しかしながら、その結果の数値をどのように捉え、具体的にどういう施策をとるかについて悩まれる企業担当者は少なくありません。
今回はメンタルヘルス不調者予防のために必要な視点をご紹介しました。
ストレスチェックなどの実施だけではなく、その後の施策でお困りの際もぜひお気軽にご相談ください。
<参考>
厚生労働省「令和3年度過労死等の労災補償状況」
執筆者

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【職位】
株式会社ドクタートラスト常務取締役
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