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ストレスチェックデータ「ハラスメント設問」からみる① 高ストレス者と健康リスク

はじめに

ドクタートラストのストレスチェック研究所では、ストレスチェックサービスを利用した累計受検者122万人のデータを活用し、さまざまな分析を行っています。
今回は2021年度に80項目のストレスチェックサービスを利用した受検者約16万人の結果を分析し、ハラスメントに関する設問と高ストレス者や健康リスクとの関連について、特徴を導き出しました。

結果概要

ストレスチェック設問のうち、問77「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」について、結果を集計分析すると次の特徴がみられることがわかりました。

ハラスメント設問と高ストレス者の関係

ストレスチェック設問のうち、問77「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」への回答状況と高ストレス者判定の関係は以下のとおりです。

「そうだ」と回答した人(2,373人)は、約60%が高ストレス者(※1)と判定されていました。
「まあそうだ」と回答した人(7,427人)は、約42%が高ストレス者と判定されていました。
「ややちがう」と回答した人(25,974人)は、約25%が高ストレス者と判定されていました。
「ちがう」と回答した人(123,809人)は、約11%が高ストレス者と判定されていました。
なお、2021年度、全受検者に対して高ストレス者率は約15%でした。

※1:高ストレス者とは、ストレスチェックを受検して「心身の自覚症状を強く感じている状態。または自覚症状が一定程度あり、職場や周囲のサポートの状況が悪い状態」と判断された方を指します。

ハラスメント設問と健康リスクの関係

ストレスチェック設問のうち、問77「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」への回答状況と健康リスクの関係は以下のとおりです。

「そうだ」と回答した人は、総合健康リスク(※2)の平均が170、「まあそうだ」と回答した人は147と高値でした。
「ややちがう」と回答した人でも126と健康リスクが高値でした。
「ちがう」と回答した人は88でした。

※2:健康リスクとは、その集団に属する従業員の健康にどの程度影響を与えるかの指標となる数値です。
全国平均を100として考え、数値が120であれば、平均より1.2倍健康に障害を及ぼすリスクがあると考えます。
120以上の職場には、何らかのストレスに関する問題が生じている場合が多いとされます。

問77「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」の回答 回答人数 回答人数割合 高ストレス者率 総合健康リスク(※2)
そうだ 2,373 1.50% 60.40% 170
まあそうだ 7,427 4.70% 42.30% 147
ややちがう 25,974 16.30% 25.40% 126
ちがう 123,809 77.60% 10.50% 88
2021年度合計 159,583 100.00% 15.10% 97

考察

ハラスメントを受けていれば、心理的な負荷がかかりストレス判定は悪くなり、健康リスクも高くなることは容易に予想ができますし、「当たり前の結果である」ともいえます。
ハラスメントは悪いものであり、企業のリスクにしかならないもの、根絶させなければならないものです。
皆さんも共通の認識としてお持ちでしょう。
今回の結果から見えてくる特徴的かつ重要なポイントは「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)」に関して、「ややちがう」と答えた方の結果ではないでしょうか。
設問では「自分がいじめにあっているかどうか」つまり、ハラスメントの有無を確認しており、程度や頻度を確認しているわけではありません。
本来この設問には、日本語的に「そうだ」か「ちがう」の二択で回答することになりますが、二択で答えられない余白が「ややちがう」に込められています。
「ややちがう」は何を指しているのか。
ハラスメントの持つ特殊性から見ると、「ややちがう」は、「自身はハラスメントの脅威に晒されていないが他者が晒されている」、「現在はないが過去にハラスメント事案があった」、「ハラスメントとまではいえないが対人関係的に辛さや理不尽さがある」といった職場が不穏な状態であり心理的に安心できる場所ではないことが表現されていると考えられます。
それは、「ややちがう」と答えた人たちが、高ストレス者の割合は全国平均から10ポイントも高くなり、総合健康リスクも問題が生じている可能性の高いとされる数値(120)を上回っているのが、何よりの証拠ではないでしょうか。
ハラスメントが起きた場合、周囲の人物が助けてくれる場合もありますが、多くは被害者になることを恐れて傍観者になることがほとんどで、被害者も報復を恐れて口をつぐんでしまうことも多くあります。
人事・上司がハラスメントの実態をまず感知することが何より重要ですが、それには定期的な社員への研修教育、面談やアンケートでの職場のトラブルの感知、相談窓口の設置と利用啓発、早期の介入と再発予防活動、などの単発ではない一連の活動を繰り返し企業全体で実施していくことが必要です。
社員全員が「ちがう」と回答できるように、ストレスチェック結果も踏まえて、企業としてのハラスメント対策を行うと効果的と言えるでしょう。

まとめ

ハラスメントは個人・集団に対して心理的な負荷であり、健康にリスクを与えることや、ストレスチェックの集団分析を見るにあたっては、ハラスメントの有無を確認するための「そうだ」「まあそうだ」だけではなく、職場に不穏な状態があることを示唆する「ややちがう」にも着目し、全社員が「ちがう」を選択できるよう、職場環境改善に取り組む必要があることが結果から示されました。
また、ハラスメントで起きやすい、報告を恐れてしまう被害者や周囲の人物からくる企業の感知のしにくさを理解し、ハラスメントを根絶に向けて、定期的に繰り返し対策を実施していくことが重要であることが結果から考察されました。

DL

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