
労働量が少ないと働きがいも減る?ストレスチェックの尺度「仕事の量的負担」から傾向分析を実施
最終更新日 2023-01-10
ストレスチェックでは、80の設問に対して4択形式で回答することで、全42尺度の結果を導出してきます。
この42尺度の1つである「仕事の量的負担」は、以下3つの設問から算出されます。
・ 非常にたくさんの仕事をしなければならない
・ 時間内に仕事が処理しきれない
・ 一生懸命働かなければならない
今回は、2021年度にドクタートラストでストレスチェックを実施した32万人分のデータをもとに、仕事の量的負担に関わる3つの設問について、以下の4群に分けて傾向分析を実施しました。
① 仕事の量的負担が「不良・やや不良回答」かつ「高ストレス者」(以下、不良回答群(高ストレス者))
② 仕事の量的負担が「不良・やや不良回答」かつ「高ストレスでない者」(以下、不良回答群(非高ストレス者))
③ 仕事の量的負担が「良好・やや良好回答」かつ「高ストレス者」(以下、良好回答群(高ストレス者))
④ 仕事の量的負担が「良好・やや良好回答」かつ「高ストレスでない者」(以下、良好回答群(非高ストレス者))
4群の内訳
初めに、今回比較する4群の人数の内訳を見ていきましょう。
量的負担の3設問 | 非高ストレス者 | 高ストレス者 | 総計 |
不良、やや不良 | ② 102,493人 | ① 29,741人 | (① + ②)132,234人 |
良好、やや良好 | ④ 33,224人 | ③ 1,979人 | (③ + ④)35,203人 |
上記のとおり2021年の総受検者32万人のうち、約40%が「仕事の量的負担」の3つの設問すべてに不良、やや不良の回答(① + ②)、さらに、そのうち23%が高ストレス判定となっています。(①)
総受検者32万人のうち約10%が「仕事の量的負担」の3つの設問すべてに良好、やや良好の回答(③ + ④)、そのうちの5%が高ストレス判定となっています。(③)
「仕事の量的負担」が多いと感じている人は、少ないと感じている人の約4倍でした。
また、仕事の量的負担について、不良回答群(① + ②)、良好回答群(③ + ④)それぞれの高ストレスの比率を見たとき、前者のほうが18%ほど高ストレス者が多いという結果になりました。
不良回答群と良好回答群の特徴
次に「仕事の量的負担」への不良回答群と良好回答群の特徴を見ていきましょう。
ここからは不良回答群と良好回答群に分け尺度ごとの平均点をもとに分析していきます。(平均点は1~4までとし、不良(好ましくない)な回答ほど、高い点数となっています)
仕事の量的負担への不良回答群の特徴(①・②)
仕事の量的負担が不良(多い)と感じている人はストレスの度合いにかかわらず、以下の傾向が見られます。
・ 仕事の質的負担も多いと感じている
・ 身体的負担が大きいと感じている
・ 仕事のことを考えて自分の生活を充実させられないと感じている
良好回答群の特徴(③・④)
一方、仕事の量的負担が良好(少ない)と感じている人は、以下の傾向が見られます。
・ 自分の技能や知識を仕事で使うことが少ないと感じている
・ 働きがいを感じられていない
・ 役割の明確さを認識できていない
・ 自分の長所を伸ばす機会が少ないと感じている
また、良好回答(高ストレス者)に関しては今回分けた4つのグループの中で「技能活用度」、「働きがい」「役割明確さ」「成長の機会」の4尺度がもっとも不良な結果となっています。
各群の比較
次に各群の比較をしていきましょう。
②不良回答群(非高ストレス者)と④良好回答群(非高ストレス者)
先ほど良好回答群の特徴でもあげた4つの尺度「働きがい」「成長の機会」「技能活用度」「役割明確さ」に加えて、「ワーク・エンゲイジメント」「上司のリーダーシップ」、その他2尺度が、不良回答群とくらべて良好該当群のほうが不良(好ましくない)結果となっています。
①不良回答群(高ストレス者)と③良好回答群(高ストレス者)
③良好回答群(高ストレス者)は、「仕事の量的負担」が良好にもかかわらず高ストレス判定となっているため、①不良回答群(高ストレス者)とくらべて「仕事の量的負担」以外でも不良な尺度が多く、差も先ほどの、④良好回答群(非高ストレス者)とくらべても大きくなっています。
また、③良好回答群(高ストレス者)は、①不良回答群(高ストレス者)にくらべて、②不良回答群(非高ストレス者)と④良好回答群(非高ストレス者)の比較で不良だった6尺度に加え「多様な労働者への対応」「経営層との信頼関係」などあわせて30尺度が不良となっています。
ここで注目したいポイントが、②不良回答群(非高ストレス者)と④良好回答群(非高ストレス者)の比較で良好回答群のほうが不良だった6尺度が、高ストレス者群同士の比較(①不良回答群(高ストレス者)と③良好回答群(高ストレス者))でも、上位6尺度になっている点です。
このことから、6尺度はストレスの度合いに比較をしたときに、「『仕事の量的負担』が良好の人のほう」が不良であるとわかります。
ストレス度合いによる比較
次に、ストレス度合いによる比較をしていきます。
①不良回答群(高ストレス者)と②不良回答群(非高ストレス者)
不良回答群の高ストレス者と非高ストレス者を比較したとき、すべての尺度で高ストレス者の平均点が高く、不良となっています。
その中でも高ストレス者はストレス反応が多く出ており平均点の差が顕著にあらわれていることがわかります。
一方で、不良回答群の高ストレス者と非高ストレス者で差があまり現れなかった尺度は「役割明確さ」「仕事の量的負担」「仕事の質的負担」「身体的負担」です。
前述のとおり、これらはストレス度合いに関わらず不良の項目でした。
③良好回答群(高ストレス者)と④良好回答群(非高ストレス者)
「仕事の量的負担」については高ストレス者と非高ストレス者で平均点の差はほぼありませんがその他の41尺度はすべて高ストレス者のほうが不良となっています。
特徴的は、高ストレス者はストレス反応に関わる尺度が、非高ストレス者にくらべ不良である点です。
このことから良好回答群も、不良回答群と同様にストレス反応が現れることで高ストレスになってしまうことがわかります。
各群の幸福度
最後に、ストレスチェックの尺度「働きがい」「仕事の満足度」「家庭の満足度」「ワーク・エンゲイジメント」から算出する「幸福度」についてくらべてみましょう。
幸福度の算出根拠
「働きがい」「ワーク・エンゲイジメント」が生活の土台となる「活力」や「やる気」に関わる項目であり、「仕事の満足度」「家庭の満足度」が公私全般における満足度を尋ねる項目です。今回は、この土台部分および現状への満足度を総合して「幸福度」と位置付けています。
上記4尺度の平均点を合計し点数が低い方が「幸福度」が高いと定義して比較をしていきます。
上記のグラフは各群の幸福度を表したもので、数値が小さいほど「幸福」と言えます。
グラフからわかるように、非高ストレス者(②・④)はほぼ全国平均並みの「幸福度」となりました。
ここで注目したいポイントが不良回答群の高ストレス者(①)よりも良好回答群の高ストレス者(③)のほうが、幸福度の数値が高い(不良)ということです。
今回「幸福度」と定義した4尺度はこれまでの分析を振り返るとわかるとおり、仕事の量的負担が少ない良好回答群の方が不良な尺度と合致します。
「幸福度」に関する尺度として直接「仕事の質的負担」は入ってはいませんがこれらの尺度と「仕事の量的負担」は密接な関係にあることがわかります。
まとめ
今回は、「仕事の量的負担」に着目し4群に分けて比較をしてきましたが分析をした結果、以下のことが数値から見てとることができました。
仕事の量的負担で見る全国分布
・ 不良回答群は全国の約4割
・ 良好回答群は全国の約1割
不良回答群の特徴
・ 質的負担も多い
・ 身体的負担が多い
・ 仕事のことを考えて自分の生活を充実させられない
良好回答群の特徴
・ 自分の技能や知識を仕事で使うことが少ないと感じている
・ 働きがいを感じられていない
・ 役割の明確さを認識できていない
・ 自分の長所を伸ばす機会が少ないと感じている
・ 上記4つの尺度は良好回答群(高ストレス者)が最も不良となっている
不良回答群と良好回答群の比較
・ 良好の特徴の4尺度に加え「ワーク・エンゲイジメント」「上司のリーダーシップ」はストレス度合い別に比較したときに良好回答群が不良である
高ストレス者と非高ストレス者の比較
・ 「ストレス反応」、「幸福度」に関わる尺度が不良になることで高ストレス者となっている。
幸福度
・ 非高ストレス者はほぼ全国平均並み
・ 高ストレス者は全国平均より大きく不良となっている
・ 中でも良好回答群の方が不良回答群とくらべて不良となっている
難しいことではありますが、仕事の量的負担はバランスが大切だということが数値からわかります。
皆さんは、今の自分の仕事の量についてどのように考えていますか?
今回のこの分析を通して自分の仕事の量やストレス、幸福について考えるきっかけになると幸いです。